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最新号の内容 -20170224 No:1473
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《70》
BEPSに対する香港の取り組み

 月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国等を中心とした税金等に関する問題についてご紹介させていただきます。これまで、BEPSBase Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)と呼ばれる、多国籍企業による各国の税制の相違点や不整合を利用した国境を越えた過度な節税策に対応するための国際課税ルールの見直しがOECDで行われていることについては何度か触れてきましたが、BEPSに対する香港としての取り組みに関する公開草案が公表されましたので、その概要を解説いたします。


概要 

 香港政府は2016年1026日に、香港におけるBEPSへの対応に関する公開草案(Consultation Paper on measures to counter Base Erosion & Profit Shifting)を公表しました。公開草案において、香港政府はOECDが2015年10月に公表したBEP最終報告書を受けて、香港は最低でも以下の4点について取り組んでいくことを公約しています。

・Action 5:countering harmful tax practices (有害税制への対抗)
・Action 6:preventing treaty abuse(租税条約の濫用防止)
・Action 13imposing CbC reporting requirement (移転価格文書化)
・Action 14improving cross border dispute resolution mechanism(相互協議の効果的実施)

 今回は、このうち、Action 13(移転価格文書化)に関する公開草案の概要を解説いたします。


従来の香港における移転価格制度

 香港では、これまで移転価格制度に関する規定がなく、実務上のガイドラインであるDIPN (Departmental Interpretation Practice Note:解釈指針) 46が公表されているのみでした。これは、全般的にOECDモデル租税条約や移転価格ガイドラインに従っているものであり、移転価格算定方法はOECDガイドラインに準じて基本三法を優先適用する、移転価格文書作成は義務はないが推奨されるといった内容を述べているものでした。DIPN46により、香港自らが移転価格課税を本格的に行う体制を整え、これに基づく移転価格課税も徐々に行われてきてはいましたが、移転価格文書作成の義務がないことから、日系企業において移転価格に対する事前の準備をしている会社はそれほど多くなかったと思われます。


今後の香港における移転価格制度

 本公開草案では、これまで税務条例に規定がなく、実務指針上のガイドラインのみであった移転価格税制に関する制度を、香港税務条例の条文として成文化することを謳っています。公開草案では、OECDが推奨するマスターファイル、ローカルファイルおよび国別報告書からなる3層構造の文書化を採用しています。 それぞれの文書の概要は下記の通りとなります。

Master file(マスターファイル):多国籍企業の事業概要等を記載
Local file(ローカルファイル):個々の関連者間取引に関する詳細な情報を記載
CbC report(国別報告書):国別に合計した所得配分、納税状況、経済活動の所在、主要な事業内容等を記載

 ただし、企業に過度の負担をかけることを避けるため、以下の3つの条件のうちいずれか2つを満たす納税者に対しては、マスターファイルとローカルファイルの作成が免除される予定です。

①総年間売上が1億香港ドル以下
②総資産が1億香港ドル以下
③従業員が100名以下

 また、国別報告書の提出基準は OECD の推奨基準に従って、年間の連結売上が750百万ユーロ(約68億香港ドル)以上で設定されることが提案されています。この基準だと、香港では約150社が提出の対象となる見込みとのことで、大部分の日系企業は対象外となることが予想されます。

 なお、公開草案によると、対象となる企業は2018年中に情報を収集し、2019年度中に初回の報告書を提出することが要求される計画です。


まとめ

 税率が16・5%と低い香港では、所得が流出するというよりも集まって来やすい地域のため、従来は移転価格税制の執行は緩やかに行われてきました。上記内容は公開草案であり、法令の改正にはもうしばらく時間を要するとは思われますが、一定の規模以上の会社については、義務化されていなかった移転価格文書の作成が義務付けられることになるため、香港にある日系企業にとっても移転価格の準備が迫られてきていると言えます。

(このシリーズは月1回掲載します)

 

 

筆者紹介

フェアコンサルティング(香港)

 東京、大阪、香港、上海、蘇州、台湾、ベトナム、フィリピン、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、メキシコ、オーストラリアを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェア コンサルティンググループの香港拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士スタッフが、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務・財務戦略を企画・立案・実施支援しています。

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