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最新号の内容 -20170224 No:1473
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#100 
今後の香港を活用したビジネス展望について
 

華南ビジネス最前線」では、お客様からのご質問・ご相談が多い事項について、理論と実務の両方を踏まえながら、できるだけ分かりやすく解説します。
(三菱東京UFJ銀行 香港支店 業務開発室 アドバイザリーチーム)


 2009年よりスタートした「華南ビジネス最前線」も、今回で第100回を数えるに至りました。第100回目となる今回は、これまでの華南ビジネスを振り返り、今後の香港を活用したビジネスの展望について述べたいと思います。

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⒈華南ビジネスにおける主要な出来事

 改革開放以来、広東省を中心とする華南地域が外国直接投資の対象として注目されている。現在では、パソコンおよびその周辺機器、携帯電話、電子部品、家電等の電機電子製品において世界的な生産および流通拠点としての地位を築いている。この8年間で華南ビジネスにおける大きな出来事として、以下の4点を振り返りたい。


⑴来料加工廠の独資化と加工貿易の高度化

 華南地域は1980年代から委託加工(来料加工)方式による労働集約的・低付加価値製品の輸出生産拠点として、多くの外資系企業を引き付けてきた。しかし、経済発展が進むとともに中国政府が産業の高度化に軸足を移したことや、華南独特の操業形態が中国の法制度に適していないと判断されたことから、2009年からの加工貿易への規制強化の一環で来料加工廠の法人転換が本格化していった。

 2009年半ばに税関総署より「来料加工廠の法人転換に関する設備輸入税収に関する問題の通知(財関税【2009】48)」と税関総署公告第62号が公表され、税関監督管理期間内(輸入から5年以内)の無償貸与設備を2011年6月30(その後、2015年12月末まで延長)までに現物出資して法人を設立する場合、関税・増値税の補充納付が不要となることが明確化された。

 独資転換目標がほぼ達成した現在、深‮&‬`は新規の来料加工廠を認可せず、既存の加工廠も営業期限満了で終了する方針を固めた。東莞市では、深‮&‬`と同じく新規の来料加工許可は原則発給しない方針となっているが、既存加工廠については1年単位で営業許可の延長を認めるなど、深‮&‬`と比較し寛容な態度を取っている。

 一方、東莞市は2010年全国加工貿易の改革パイロット都市に指定され、加工貿易の高度化に向けた取組みを行っている。同市は2014年と2016年にそれぞれ加工貿易発展促進のための支援措置を発表し、技術革新と自主ブランドの構築により加工貿易の付加価値向上を促進している。現在、東莞市はスマートフォン産業の集積地となりつつあり、携帯電話産業への構造転換が同市加工貿易産業の高度化を実現するモデルとみなされている。


⑵中国本土と香港の経済貿易緊密化協定(以下、CEPA)

 CEPAとは香港と中国本土間の初めての自由貿易協定(以下、FTA)であり、この協定は香港が中国本土と経済的に連動し、WTO加盟時の公約に基づく中国本土市場の開放と自由化の恩恵を香港の中小企業が享受できるようにするための協定である。2004年1月の施行により、香港製品の90%はゼロ関税で中国本土に輸出できるようになった。

 その後、この協定は2013年まで10回にわたり補充協定が締結されたほか、2014年12月に締結された「香港と広東省の間でのサービス貿易の自由化に関する協定(広東協定)」を皮切りに、サービス貿易の自由化は全国に拡大。現在ではWTOが定めた160のサービス貿易分野の95・6%にあたる153分野について、全面的あるいは部分的に自由化されている。


⑶人民元クロスボーダー取引の拡大

 2009年7月、中国の5つのパイロット都市と香港・マカオおよびASEAN10カ国との間で、一部企業による人民元建て貿易決済が解禁された。その後、2012年には、一部特定資本項目取引を除きすべての人民元クロスボーダー決済取引が可能となった 。

 華南地域では、2015年4月、香港・マカオとの協力深化、サービス貿易のさらなる開放や金融面の協力を推進することを目標として「広東自由貿易試験区」が設立された。その後、人民銀行広州支店は相次いで(広東)自由貿易試験区におけるクロスボーダー人民元取引を促進する政策を公布した。例えば、一般地域より人民元クロスボーダープーリングの導入要件を緩和することや、区内企業は個社の投注差と関係なく香港とマカオの銀行金融機関から人民元外債を借入可能なこと、区内金融機構と企業が域外での人民元債発行で調達した資金を域内に還流可能なことなど、金融分野での開放が他地域比先行している。


⑷オフショア人民元市場の成立と拡大

 2009年以降中国・香港間貿易で人民元利用が進展した際、中国から香港への人民元支払が先行して香港に滞留した人民元をもとに、香港にオフショア人民元市場(CNH)が成立した。中国政府は中国本土で流通するオンショア人民元市場(CNY)との二重相場を維持する事により、オフショア人民元市場(CNH)における資本取引の自由化、金融商品の多様化を進めつつ、中国国内市場の開放と金融改革を段階的に進めてきた。現在ではオフショア人民元市場は世界中に広がり、すでに100カ国以上で人民元決済が導入されている。2016年1月〜10月までのクロスボーダー人民元決済額が3万8638億元に達するなか、香港はその72・5%を占める。オフショア人民元預金でも香港は圧倒的なトップであり、世界最大のオフショア人民元センターとしての地位を確立させた。

 

⒉香港に求められるもの

 中国における数々の規制が緩和されると同時に経済も発展してきたことで、香港を取り巻く環境は時勢に応じて変化をしており、求められるものも変化してきている。その中で、香港が強みとするのはビジネスハブ(香港政府の表現を借りれば「スーパーコネクター=仲介者」)としての機能である。対中国に向けてのゲートウェイとしてCEPAやFTAなどの活用によるビジネス展開や、国際的な資金調達プラットフォーム、低廉な税制、専門サービス・優秀な人材の豊富さなど、整った環境の優位性を生かしていく必要がある。

 今後考えられる問題は、中国経済の発展に伴う人件費高騰などの問題に備え、中国以外の国・地域に拠点を移す動き(チャイナ・プラスワン)やM&Aに対する対策である。拠点が東南アジアを含めて広域に展開するようになれば、それだけ管理すべきリスク(為替や税務など)や実務は増加する。香港は企業全体としてのリスク軽減や効率化に寄与する統括機能の提供が期待される。

 これに加え、2016年6月に可決された財務統括会社向け優遇税制も活用したいポイントといえる。適格財務統括会社に該当した場合、該当する利益への企業所得税率は通常の50%に低減(通常16・5%⇩低減後8・25)される。この優遇税制導入により、香港における財務統括機能の強化を図る企業グループの増加が期待される。

 

⒊まとめ

 「華南ビジネス最前線」と題して華南におけるビジネストレンドを追い続けて約8年。これまでも香港を取り巻く環境は変化を続けてきたが、足元では中国経済の成長鈍化をはじめとして、香港は新たな課題に直面している。

 日系企業にとって環境変化はリスクだけではなく、チャンスでもある。その環境下で香港の機能や優位性をどう生かすか。今後新たに直面する課題にも香港の機能を活用して対処できる可能性があり、リスク認識の高まりは香港の機能をより深く活用する好機ともいえる。またグローバル企業のアジア広域での事業展開が進展する状況下、地域統括機能の強化はさらに重要性を増しており、広域事業連携体制の強化に香港の機能を活用する機会は増加している。

 最後に、節目となる第100回を迎え、これまでの格別なるご愛顧、誠にありがとうございます。華南ビジネス最前線では、これからもお客様からのご質問・ご要望事項についてできるだけ分かりやすく、解説をしていきたいと考えておりますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

(執筆担当:川上 大樹)
 

(このシリーズは月1回掲載します)

三菱東京UFJ銀行香港支店
業務開発室 アドバイザリーチーム
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