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最新号の内容 -20170224 No:1473
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2017年第1四半期の投資展望

 
香港経済—今月のポイント

①トランプ氏の米大統領選当選により、世界的にアセットアロケーションの見直しが起こった。インフレ予想が広がり、米国の財政出動策により利上げペースが加速するとの観測が広がったためである。新政権の誕生で米ドルが上昇を続ければ、米国株や米ドル建て高利回り債券といったリスク資産への資金流入が続くであろう。

②米政府の今後の貿易政策によるアジアやグローバル企業業績への影響懸念がアジアおよび新興市場にとって不透明要因を増幅させる。

③2017年の香港市場上場企業の利益成長は2016年を上回る見込みである。「李克強指数」等の経済指標が、中国経済が2016年半ばに底をついたことを示しているからである。中国政府もインフラプロジェクトに注力し、鉱工業生産やインフレ率が改善し、景気を支えている。こうした点を踏まえると、第1四半期のハンセン指数は2万3500ポイントを試す展開になろう。④米国の2017年の利上げ回数予想は現時点で3回で、世界の債券市場にとって最大の足かせ材料となっている。足元では世界の高利回り債券は安定したパフォーマンスを維持しているが、リスク分散するよう注意を払う必要がある。特に、アジア地域の米ドル建て高利回りの債券は割安感がない。

⑤外為市場に関しては、第1四半期は政治的不透明感からユーロと英ポンドには弱気にみている。

 
 米連邦準備理事会(FRB)は2016年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、1年ぶりの利上げを決定し、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0・25〜0・5%から0・5〜0・75%に引き上げた。同時に発表した政策金利見通しによると、2017年の中央値は1・375%で、2017年に毎回0・25%のペースで3度の利上げが実施されることが示唆された。これを受け、米国の10年物国債利回りは2・5%以上に上昇。アジアの株式市場からの資金流出懸念が広がった。もっとも、利上げ前に市場はすでに調整していた。米ドル高進行、米国債利回りの上昇の下、アジアからの米国への資金シフトの観測が広がったためである。

 米大統領選でのトランプ氏の当選により、世界的にアセットアロケーションが起こり、インフレ期待が高まり、米国の財政出動策により利上げペースが加速するとの予想が広がった。新政権発足により米ドル高進行が続けば、米国株や米国の高利回り債券といったリスク資産への資金流入が続くであろう。

 一方、欧州は2017年は選挙を控え、政治的不透明要因が多い。このため、欧州株に対しては慎重にみている。アジアおよび新興市場については、トランプ政権の貿易政策によるアジアやグローバル企業への業績への影響が懸念材料になると予想される。ただし、新興市場は調整局面を経て、第1四半期は再び資金が戻っている可能性があり、BRICSとASEAN市場は見通しが明るいであろう。

 香港株の見通しは、ドルペッグ制を採用する香港では米国の金融政策に敏感なため、短期的には変動が激しくなる可能性がある。ただし、バリュエーションが割高でないうえ、中国のここ数カ月の経済指標も悪くない。このため、香港株は大きな押し上げ材料はないにしても、大幅な下落の可能性も少ないとみている。

 2016年11月8日の米大統領選の際、香港のハンセン指数は2万2000ポイントが強力な下値支持線となった。その理由は、PERがすでに低い水準だったためである。ファンダメンタルズに目を向けると、2017年の香港上場企業の利益成長は2016年を上回ると予想される。「李克強指数」等の経済指標で、中国経済が2016年半ばに底をついたことを示しているからである。中国政府もインフラプロジェクトに注力し、鉱工業生産やインフレ率は改善し、景気を支えている。こうした点を踏まえると、第1四半期のハンセン指数は2万3500ポイントを試す展開になろう。他方、中国人民銀行による金融政策がインフレにより引き締めになるか、中国本土資金の香港市場への資金流入が再び拡大するか、には留意する必要がある。

 債券市場をみると、トランプ氏の当選や米国の利上げ観測の下、10年物米国債の利回りは徐々に上昇。2016年半ばの1・36%から同年末には2・58%まで上昇した。市場では、30年物債券の強気相場の終息の可能性が注目されている。米国債利回りの上昇に伴い、世界の国債の利回りも上昇している。ただし、投資ポートフォリオにおいて債券は不可欠である。このため、比較的短い期間の債券で長期債券のリスを回避を検討することも可能であると考える。世界的な高利回り債券は足元で強いが、地域リスク分散の必要性に注意を要する。例えば、アジア地域の米ドル建て高利回り債券は必ずしも割安ではない。一方、米国の高利回り債券は原油価格の影響が大きく高止まりが続く可能性がある。いずれにせよ、債券ポートフォリオの分散は必要である。

 外為市場に関しては、第1四半期は政治的不透明感からユーロと英ポンドは弱気にみている。一方、豪ドルやカナダドルは原油などの商品価格の回復の恩恵を受け、安定的に推移すると予想される。


中国本土、香港市場
 

— 香港株の短期的な見通しは米ドル推移次第。トランプ大統領就任前後の市場の変化に留意

 2016年初めはA株市場のサーキットブレーカー制度の混乱を受け、香港株は下落。2月からは7カ月間の上昇基調を維持し、ハンセン指数は2万4000ポイント、H株指数は1万ポイントを突破した。しかし、年末にかけては深センと香港市場との相互取引制度である「深港通」の解禁遅れや中国当局による保険会社の株式投資引き締めなどが下押し材料となった。一方、米国株は、トランプ氏の当選、利上げを受け、三大指数はいずれも過去最高値を更新。米ドル高で新興市場の株式市場は軟調に推移し、香港株も調整を強いられた。

 2017年は1月20日のトランプ大統領就任前後の米ドルおよび米国株の動きに注意を払う必要がある。現時点では、米国の景気拡大が続き、米ドル高が進むというのが大方の市場予想である。仮に、米ドル高が続いた場合、香港株の下押し圧力はくすぶるであろう。一方、米ドルが軟化すれば、第1四半期のハンセン指数は2万3000ポイント、H株指数は9800ポイントまで回復すると予想される。
 

—2017年の香港株は2016年の高値を上回る可能性も

2017年の香港株の見通しは、一段高を見込み、ハンセン指数は2万5700ポイント、H株指数は1万1500ポイントに達すると予想する。中国本土の2016年供給サイド改革の効果が表れ始め、工業企業の業績改善や従来型産業の回復が見込まれるためである。2017年も、過剰生産能力の解消や在庫解消、デレバレッジの推進といった供給サイド改革が進められ、景気改善が続き、業績も上方修正の余地があろう。資金フローにに関しては、米国の利上げ観測で、債券市場よりも株式市場への資金流入が見込まれる。香港株は、中国本土からの資金流入の恩恵を受けるとみられる。
 

—中国は2017年、供給サイドの改革深化、国有企業改革、バブルリスク防止、年金保険制度改革案策定に注力する見通し

 中国の中央経済工作会議が2016年1216日に閉幕し、2017年の経済政策の方向性が決められた。供給サイドの改革継続のほか、不動産市場と金融市場のバブルリスク抑制、年金保険制度改革案の推進加速、石油、電力、鉄道セクターにおける混合所有制改革の推進加速に重点が置かれる見通しである。
 

—上期はリスク要因が多いが、下期は米国の対中貿易政策が明確化し、中国の景気改善が一段と進む見込み

 2017年の中国経済はL字型の回復を維持するとみられるが、上半期は次のようなリスク要因が多い。①米ドル高新興に伴い資本流出圧力が強まり、当局が資本流出規制を強化する可能性、②不動産の価格抑制策が年半ばまで続き、景気に影響する可能性、③英国のEU離交渉が3月に始まり、欧州では大きな選挙が相次ぎ、世界の外為市場や株式市場はボラティリティが高まる——などのリスクである。ただし、下期は米国の貿易政策が明確になり、中国経済のさらなる改善が見込めそうである。

 リスク要因:⑴不動産価格抑制策を背景にした景気下振れリスク、⑵米ドル高進行に伴う資金流出圧力の増幅、⑶政策効果の欠如、⑷人民元安リスク。
 

(恒生銀行「2017年第一季度投資展望」1月6日号より。このシリーズは月1回掲載します)