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最新号の内容 -20170210 No:1472
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   2011年、僕は自分の経験を誰かと分かち合いたくて『活出大未来(未来をつかめ)』を書き上げ、2016年に自費出版した。文章はもちろん、レイアウトから組版、装丁といった制作全般から印刷指定とそれにかかる一連の確認作業、発行に至るまで、すべて自分一人で行った。文章を書く以外の作業はプロに任せても良かったのだけれど、僕はこの煩雑かつ興味深い作業を通して、「瓜を植えれば瓜がなる、豆を植えれば豆がなる」ということわざのように、ある種の達成感を味わいたかった。それに、若干20歳の新米編集者の僕が理想の自分に追いつこうと奮起する軌跡を記した記念すべき本だから、全部自分で手掛けたかったというのも理由だ。

2016年7月に香港会議展覧中心で開催された香港書展で《演繹真・自己》と題して講演

  僕は2009年に香港の大学の本科を卒業した。専攻はニュース・メディア学。卒業後はメディアの世界で働きたいという思いがあったが、僕の周囲はこぞって反対するし、同級生からも「君はメディアには向かない」とはっきり言われてかなり傷ついた。確かに客観的に考えて自分でも難しいかなと思える部分はあった。でもそんなこと考えていたら前に進めない、卒業後は新聞社や出版社などを中心に就職活動を精力的に行った。ところがどこを受けても不採用の連続。面接の機会さえ与えてくれないところがほとんどだった。

 就職浪人となった僕はどんどん落ち込んで、孤独と不安に押しつぶされそうになっていった。それでも、大学進学の時にこの道で生きていくと決めて4年もの時間を費やしたんだから、ちょっとくらいうまくいかないからって諦めるのはまだ早い。そんなふうに自分をなんとか鼓舞して就活を続けた。

 そして将来の見通しが立たないまま1年8カ月が過ぎたころ、僕はついに編集者として就職することができた。香港誌『鏡報』に採用されたのだ。さらにその後、ある文学コンテストで賞も受賞するというハッピーなことが続き、僕はようやく少しだけ自信を取り戻し始めた。そんな時、ある人から「ちょっと文章が書けるだけなんじゃないの?」と言われたことで、僕は奮起した。もっとがんばって、みんなに僕のやる気を見せてやりたい。そして、もっと認めてもらいたいと。

月刊『鏡報』創刊35周年記念パーティーの準備をする筆者
 

 こうして僕は1年半かけて『活出大未来(未来をつかめ)』を自費出版したのだが、なんとその後、この本の制作の経緯や内容について香港とマカオの両ブックフェアで講演の機会をいただいたのだ。

 講演は僕にとってとても良い経験だった。聴衆が僕を見つめながら話に聞き入り、内容が佳境に入るとそれをノートに書き取っている。楽しい気分にさせようと、少しばかり面白い話をすると笑ってくれる。かつての苦しかった就職浪人時代を語れば、まるで何かを考えているように眉間にしわを寄せてくれる。言葉ではない聴衆の反応がうれしくて、次はもっと上手に講演したいと思うようになっていった。僕は部屋の中でコツコツと物を書く文人であり、かつ冷静で物おじしない挑戦者でもあると証明されたような気分。僕は聴衆と向き合っている実感に包まれながら、あの時諦めずに自分を信じて頑張ってきた自分が少しだけ誇らしくなった。

香港書展で行った講演《演繹真・自己》では自身の作品を紹介
 

 僕はよくトラムに乗るけれど、乗る都度にトラムが持つ生命力のように自分も人生の目標を追い続けたいと思う。だってトラムは1904年にできて、平均時速は20キロメートル、クーラーの設備もない旧態依然とした乗り物だけど、みんなから愛されて必要とされているし、その価値を誰もが認めている。以前は多くの人がトラムの存在価値を否定した時期もあったけれど、乗客の利便性と安全性を向上させるために改良を続け、長きにわたり市民の脚として動き続けてきた。今では香港島のシンボルの一つとなり、珍しい二階建ての電車システムとして世界的にも知られるようになった。

 なんでも否定するのは簡単なことだけど、自分の能力や価値、成果を示すのは容易なことではない。確かな目標があるのに、誰かから言われた言葉に傷ついて投げ出してしまうのは、今までの苦労を無にすることだ。それに、失敗は人のせいではなく、結局は自分が引き起こしたことだと思う。

 だから、人生が思うようにいかないと嘆いている香港の若者たちに言いたい、楽な方に流されないで自分の信じた道を進んでほしいと。人生はいろいろなもの事の広がりによって彩りを増す。目の前の問題が解決できるかどうかは自分にかかっている。成果を上げた人は皆トラムのように、自分を否定されたらそれをバネに努力して、今をつかんでいるのではないだろうかと、僕は思っている。
(このシリーズは2カ月に1回掲載します)

〈筆者紹介〉
張卓立(David Cheung Cheuk Lap
香港メディア『鏡報(THE MIRROR)』編集者。
香港バプテスト大学メディア管理修士、香港中文大学文化研究修士、香港珠海学院ニュース・メディア学学士。自費出版の『活出大未来(未来をつかめ)』で新人編集者がメディアの仕事を通して得た経験を交え、若者に将来に対するプラス思考のススメを説いている。