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最新号の内容 -20170210 No:1472
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香港におけるBEPS行動計画の実施

 香港特別行政区財経事務および庫務局は2016106日に『「税源浸食と利益移転」の取り締まり措置に関する諮問書』(以下、「諮問書」)を公布し、かつ政府が将来実施する「税源浸食と利益移転」(以下、「BEPS」)の取り締まり措置についてパブリックコメントを求めていました。諮問書の公布および意見公募は、香港がBEPS行動計画のアソシエートとして、経済協力開発機構(以下、「OECD」)へのBEPS行動計画およびその実施についての承諾に続き、本格的にBEPS行動計画を香港で実施する準備作業に着手することを意味しています。今回は、諮問書の公布背景、その主な内容、香港における日系企業に与えうる影響を中心に解説していきます。(デロイト・トウシュ・トーマツ香港事務所 フローラ 曽)


⑴諮問書の公布背景について

 2012年に、OECDおよびG20 (注)財務大臣はBEPSプロジェクトを立ち上げました。2015年10月にBEPS行動計画は最終的に確定され、2016年2月に関心を持つ国・地域が国際税制改正への取り込みに参加できるように、OECDは新たなBEPSの枠組みを公表しました。その中で、BEPS枠組みに参加しない国・地域もBEPSの最低基準を遵守するようOECDは要求しています。

 それまでの香港当局は主に「様子見」の姿勢でBEPSの動向を見守ってきましたが、当該枠組みが公表された4カ月後の2016年6月には、OECDの要請を受けアソシエートとしてBEPS枠組みに参加し、かつBEPS行動計画およびその実施ついて承諾しています。

 その後、香港政府はBEPS行動計画を香港で実施する準備作業として、2016年10月に諮問書を公布し、意見を公募したことは前述の通りです。BEPS行動計画を着実に実施するために、香港政府はこれから「税務条例」(以下、「IRO」)に関する修正意見を提出すると見込まれています。

 香港のBEPS行動計画実施のスケジュールは以下の通りです。


 


⑵諮問書の主な内容

 諮問書の主な目的は、BEPS行動計画であげられる以下の4つの最低基準を集中的に実行することにあります。

・行動計画5、有害税制をレビューする
・行動計画6、租税条約の乱用を防ぐために、新しい租税条約条項を制定する
・行動計画13、移転価格文書および国別報告書の規定を制定する
・行動計画14、クロースボーダーの紛争解決体制を改善する

 また、最低基準を有効に実行するために、行動計画8—10:移転価格、行動計画15:多国間協議の内容も含まれています。

 諮問書の主要な記載事項としては下記があげられます。

⒈IROにおいて、移転価格法規および事前確認制度を制定する。
⒉IROに三層の移転価格文書標準モデルを導入するが、特定の免除条項を提案する。
⒊IROにおいてクロスボーダー税務紛争解決体制、即ち、相互協議プロセス(以下、「MAP」)を制定する。
⒋香港政府が必要な場合に、現行の全面的な二重課税回避協定(以下、「CDTA」)について再検討および改正できるよう、必要な法規を導入して多国間協議の実施をサポートする。
⒌有害税制を共同で取り締まる実践的な行動として、自発的な税務裁定資料の交換許可を提案する。
 



⑶香港に所在する日系企業に大きな影響を与えうる内容の解説

 以上の諮問書に含まれる主要事項のうち、香港に所在する日系企業が、直接影響を受ける事項は、主に下記の2点であると考えられます。

①移転価格文書の導入

 諮問書によると、BEPS行動計画13で要求する移転価格文書の標準モデルを導入し、すなわち、香港における企業は3層の文書を準備する必要があります。

②移転価格ルール/同期資料への不遵守に関する罰則

 諮問書によると、上記の移転価格コンプライアンスを管理するため、香港税務局は不遵守行為に対して、厳格な罰則を課すこととし、納税者が「合理的な理由がない」、あるいは「意図的に」脱税する場合において、納税申告書に不正確な移転価格情報を記入し、適切な移転価格文書を準備できなければ、香港税務局は納税者に罰則/ペネルティを課すと諮問書で提案されています。具体的な罰則は以下の通りです。

 上記を踏まえ、今後、香港政府が関連法規を導入するに当たっては、以下の問題についてさらに検討・明確化が必要になると考えられます。

a関連者の認定基準は?
b移転価格文書の準備基準は関連者間取引に特定すべきではないか?
c香港のおける関連者間取引も対象になるか?
d移転価格の結果は精確・科学的ではないことも考慮すべきである。仮に香港税務局が脱税と同様の罰則を採用する場合、移転価格調整により追納税金が発生する際には、納税者が事前に準備した移転価格文書に対する努力と作業が完全に無視されることではないか?
e…
 


 


⑷まとめ

 国際的な移転価格動向への意識の高まりを背景に、香港におけるBEPS行動計画の実施は避けられない状況にあります。将来の香港におけるBEPS行動計画実施の改訂版・最終版の公表を考慮すると、今後は香港においても移転価格問題に対して慎重に対応していくことが必要であり、日本親会社や他拠点との整合性を確保した上で移転価格文書(国別報告書、マスター文書)を準備することが望まれます。

 香港に設立された日系企業は、グループ商流の中間会社・地域統括会社が多く、日本本社と各地、特にアジア圏の子会社とつながりがあることから、日本や中国において進めているBEPS対応に併せて、事前に香港でもBEPSの本格実施を見据えた文書作成やその準備に着手することも考えられます。

※注…「Group of Twenty」の略で、主要国首脳会議(G7)に参加する7カ国、欧州連合(EU)、新興経済国11カ国の計20カ国・地域からなるグループである。
 

(このシリーズは月1回掲載します)

筆者紹介

フローラ 曽(Flora Zeng)
Deloitte Touche Tohmatsu香港事務所
日系企業サービスグループ シニアマネジャー 中国税理士
中国における税務と移転価格専門サービスで10年超の経験を有する。多数の日系企業に対し移転価格同期資料の作成、移転価格調査抗弁、移転価格ポリシーの構築等に関する助言を行い、日中APAもサポートしている。2016年10月よりデロイト トウシュ トーマツ香港事務所に駐在し、日系企業に対する各種の税務と移転価格アドバイザリーサービスを提供している。

連絡先:flozeng@deloitte.com.hk
サイト:www.deloitte.com/cn

※本記事には私見が含まれており、筆者が勤務する会計事務所とは無関係です。