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最新号の内容 -20170210 No:1472
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 東日本大震災からまもなく6年がたつ。復興が進む福島県を取材した「香港メディア招聘事業福島視察リポート」は2回にわたりイベント最前線で掲載したが、最終回は拡大版として特集でお届けする。(インタビュアー・楢橋里彩)
 

マルカりんご園で(右は筆者、左は熊谷氏) 


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福島県二本松市から望む里山

 今もなお福島、栃木、群馬、茨城、千葉の5県に関しては、野菜、果物、牛乳、乳飲料、粉ミルクなどの輸出が規制されている。除染などの対策を取り出荷前の検査を厳しく行うことで、安心・安全な農産物を流通する体制が整っているものの、風評被害は収まらない。多くの課題を強いられているなか、復興・再生に向けて取り組んでいる福島県では福島県・ふくしま地域産業6次化推進協議会主催による「香港メディア招聘事業」が2016年10月25〜28日に行われた。本紙のほか、地元紙『東方日報』、コラムニスト・日本酒利き酒師として活躍するメイ・ラム氏が招聘され、様々な場所を視察、取材した。シリーズでお届けする「福島視察リポート」の最終回は、有機JASの認定を受けた地産地消をうたう「ななくさ農園」、土壌を分析し畑に合った施肥設計で栽培する「マルカりんご園」、そして農林水産物の放射性物質モニタリング検査を行う「福島県農業総合センター」を紹介する。

 

①福島県農業総合センター

 

放射性物質モニタリング検査室 

  2006年に設立された福島県農業総合センター。室内は広々とし天井は高く、木材を多く使用したガラス張りの美しいデザインの建物だ。同センターは農業関係の試験研究のための機関として設立されたが、東日本大震災後は県内産の農林水産物の放射線モニタリング業務も行う。我々が視察したのは県産農林水産物の放射性物質モニタリング検査室。原子力災害対策特別措置法に基づいて原子力災害対策本部のガイドラインに沿って福島県が実施している。

 福島県で生産され販売される農畜水産物が分析対象で、一般消費者から持ち込まれた農産物などの放射線測定は行っていない。持ち込まれたものは翌日結果を公表するなど、迅速な分析を行っており、これまで16万点を超える検査を実施してきた。迅速な分析検査のため、農畜水産物の洗浄や根っこの部分などの除去作業、牛肉などは下処理をした後に脂身をとり赤身のみを刻んで検査する。これは筋肉にもっとも放射性物質が溜まりやすいため。肉類や魚介類は細かく刻み100ミリリットルの容器に入れ、2000秒間測定する。野菜、果実、キノコ、山菜類などは700ミリリットルの容器に同じく細かく刻んで入れて600秒間測定する。こうすることで1キログラム当たり10ベクレルという安全基準値の10分の1の値まで測定できる。10ベクレルを下回れば未検出だ。放射性物質による汚染を防ぎ正確な分析を行うためには、手袋や容器などはすべて使い捨てをしており、ゲルマニウム半導体検出器が11台稼働、職員11人が1日に約200点の分析を行っている。

センターの草野憲二さん 

  さらに土壌などから作物へセシウムが移らないよう「吸収抑制対策」の研究も進めており、セシウムと似た一般的な肥料に含まれるカリウムを土壌に多く与えることが有効だと分かった。カリウムは畑には多く含まれているが水田では洗い流されるため、十分な量を施用するように指導している。また果樹は樹皮から果実にセシウムが移るので、樹皮を削り水洗いするという対策を取っている。

 こうした研究により安全基準値(1キログラム当たり100ベクレル)を超える放射線が検出は減少している。放射線はもともと自然界に存在し、米は1キログラム当たり30ベクレル程度の放射能を含んでいるのが通常の状態。10ベクレルまで検出する福島県農業総合センターのモニタリングは厳しい分析を追求している。

モニタリング室への入り口

モニタリング室を見学する視察参加者

  機器製造会社によるオーバーホールは年に1回実施、測定精度や外部制度の管理、さらにはサンプルや測定データの取り違えを防止するため複数回のチェックを実施している。2017年3月からはQRコード管理を開始、より円滑な管理、確かな検査結果の提供を目指す。

 地震発生直後は海外メディアからも「福島には人が住めるのか」「大丈夫なのか」などの問い合わせが相次いだそうだが、最近は中国本土、韓国、台湾など世界中から視察に訪れる企業、団体は増えている。同センター安全農業推進部の草野憲二氏は、「モニタリング室を実際に見ることで納得する人が多い。視察後に果物(桃など)の輸出が再開した国もある。」と話す。「福島県の農林水産物の安全性を訴えるためにも一度見に来てほしい」と、一日も早い福島の再生と規制緩和を願っている。

 

②マルカりんご園

農園オーナーの熊谷耕一さん

  リンゴの収穫量は全国5位(2014年産農林水産統計)の福島県。羽山地区でリンゴ・サクランボ農園を営む「マルカ農園」は半世紀前から販売直営を行っている老舗。羽山地区は阿武隈高地に位置し、標高約897メートルの羽山の自然に恵まれた環境にある。ここは冷涼な気候や昼夜の温度格差があるため、色つやのよい実のしまったリンゴが特徴だ。さらにリンゴのシーズンが長く、時期によってさまざまな品種を楽しむこともできる。8月下旬には「つがる」「さんさ」、10月からは「陽光」「ジョナゴールド」「秋映」、そして11月には「ふじ」。我々が視察した時期はちょうど「ふじ」の収穫をしていた。シャキシャキした歯ごたえに、ほどよい酸味と深みのある甘さがありバランスのとれた美味しさだ。日持ちすることが知られ贈答品としても人気が高い。そのおいしさの秘密は土壌にある。同園は土壌分析を行い、畑にあった施肥設計で完熟堆肥や天然有機物などを主原料にミネラル類を使用。土壌検査は年に数回行い、樹木に合わせた適切な肥料と量を施肥、人体や環境にやさしい減農薬栽培を徹底している。

  しかしながら、未だ風評被害などの影響で震災以前には戻っていない。「8割は戻っているが、回復まではまだ時間がかかる」と話すのは農園オーナーの熊谷耕一氏。内部被ばくを防ぐための除染活動を常時行っている。例えば主幹部と主枝の上面および側面を中心にした「粗皮削り」。これは専用の削り器具を使用して、かき落とすように古くなった樹皮(粗皮)を削ることで放射線量の約70%削減が可能になる。ここ数年は検査で引っかかっていない。熊谷氏は「実際に来て、見ていただき、食してほしい」と訴える。香港のメディア陣も「今まで食べたことがない美味しさだ」と感嘆の声をあげていた。生産性の維持、向上を図りながら環境への負荷を軽減し丹念に作り続けている。

 

③ななくさ農園

 

ななくさ農園での関さん家族

  二本松市には自然に調和した農業を営む「ななくさ農園」がある。経営しているのは関元弘さんと奈央子さんご夫妻。ともに元農林水産省のキャリア官僚だ。元弘さんがかつて旧東和町役場で2年働いたことが縁で地元農家と交流を育んできた。有機農業、自然農法にひかれ10年前に福島県東和町(現・二本松市)に夫婦で移住、耕作放棄された桑園を畑に再生した。

 有機JASの認定を受けている同農園では米、キュウリ、インゲン、トマト、小麦、大豆、ハーブなどを栽培。循環型農業に取り組む。また、消費者との交流を深めるため、田植えや稲刈り、麦の種播き、麦踏みなど農業を身近に感じてもらえるような体験イベントを行ってきた。

経営者 関元弘さん 

ななくさビーヤ 

  同農園では消費者のニーズを優先、顧客視点で商品を提供する考え方を主軸に運営しており、自家栽培米や大豆で味噌を作る、小麦を製麵屋でうどんに加工、「道の駅」で販売するなど、農業の様々なマネジメントの可能性に取り組む。2011年には発泡酒の製造免許を取得、養蚕納屋を改装した醸造所をつくり、自家栽培した麦を使った「ななくさ農園オリジナル地ビール“ななくさビーヤ”」を製造している。自家製の干し柿を使用した「干し柿スタウト」や、ゆず、小麦を使った芳醇な香りのフルーティなビールなど、まさに“福島の地ビール”だ。現在、年間4000リットル製造、1万本を超える(300ミリリットル瓶)。「日本の里山の素晴らしさをもっと発信していきたい。実際にここに足を運んでいただき、福島の里山の自然と食の魅力に触れてもらえたらうれしい」と関ご夫妻。将来的には生産量を増やしていき「福島発の新たなブランド」として発信していく。