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最新号の内容 -20110617 No:1335
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タックスヘイブン対策税制

月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国本土などを中心とした税金に関する問題についてご紹介させていただきます。今回は、最近話題に上ることの多いタックスヘイブン対策税制の概略についてご説明します。

 

 タックスヘイブンとは日本語で「租税回避地」と訳されます。一般的に税負担が非常に軽い国・地域を指し、投資に関する規制も厳しいものではないことが多いため、本社所在地がこういった国々として登録されている企業も少なからず見受けられます。ケイマン諸島やバミューダ諸島などがタックスヘイブンとして有名ですが、日本の税制上は香港もタックスヘイブンに該当します。
 
 ではタックスヘイブンを利用するとどのような現象が起きるのでしょうか?
例えばタックスヘイブンに子会社を設立し、その国に日本から所得を移すことなどにより税負担を軽減することが考えられます。
 
 左の図では、日本企業からA国企業に貸し付けが行われていますが、右の図ではタックスヘイブンに子会社を作り、日本企業からその子会社への出資を通じてA国企業に貸し付けが行われています。ともに貸付金の利子20が所得として発生していますが、発生場所は左の図では日本、右の図ではタックスヘイブンとなっています。
 
 この貸付金利子20について、左の図では日本において日本の税率にて課税されるのに対し、右の図ではタックスヘイブンにおける低い税率での課税が行われることになり、つまり右の図の方がグループとしての税負担を軽減できることになります。このようなスキームを悪用した恣意的なタックスヘイブンへの所得の移転行為を防止するために、タックスヘイブン対策税制が規定されています。
 
タックスヘイブン対策税制とは?
 タックスヘイブン対策税制が適用されると、香港など軽課税国・地域の子会社の所得が日本の親会社の所得に合算され、日本での課税の対象となります。タックスヘイブン対策税制の正式名称が「外国子会社合算税制」たるゆえんです。しかしタックスヘイブンに所在するすべての子会社が合算の対象となるわけではなく、いくつかの基準に基づいて判断します。
 
 まずは定量的基準で合算対象子会社(税務上は「特定外国子会社等」)かどうかを判定し、このうち、定性的基準(税務上は「適用除外要件」)を満たす子会社は合算対象から除外されます。
 
 読者の皆さんの中には「香港でまじめに事業を行っているのに、税率が低いからといってタックスヘイブン対策税制を適用して課税すると言われると困る」という方もいらっしゃると思います。そういった方々は適用除外要件を満たすことで、香港で事業を行っていることの合理性を説明することになります。
 
【定量的基準】
 この2つの定量的基準の両方に該当する外国子会社は、次の定性的基準を満たさない限りその外国子会社の所得が日本での合算課税の対象になります。
①その外国子会社は、日本企業および日本人にその株式の50%超を保有されている。
②その外国子会社の所得に対して課される実質税負担率が20%以下である。
 
【定性的基準】
 香港子会社などは4つの定性的基準を満たすことにより、タックスヘイブン対策税制の適用による合算課税の対象となりません。なお、④と⑤は、その外国子会社の営む業種により、どちらか一方の基準を満たせばよいとされているため、満たすべき条件は業種ごとに4つです。
 
事業基準…タックスヘイブン子会社の主な事業が株式・債券の保有、工業所有権・著作権等の提供、船舶・航空機の貸付ではないこと。
 
実体基準…タックスヘイブン子会社が本店の所在する国・地域において、事業を行うために必要な事務所、店舗、工場などの固定施設を所有していること。
 
管理支配地基準…タックスヘイブン子会社が、その本店の所在する国・地域において、事業の管理、支配および運営を自ら行っていること。
 
非関連者基準…タックスヘイブン子会社が、卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業または航空運送業を営む場合には、その主たる取引の50%超をグループ外の企業と行っていること。
 
所在地国基準…タックスヘイブン子会社が非関連者基準の対象以外の事業を行っている場合は、その事業を主に本店が所在する国内、地域で行っていること。
 
 なお、タックスヘイブン対策税制の適用により合算されるのは、合算対象となる外国会社の株式を直接・間接に10%以上保有している日本企業または日本人です。個人も合算の可能性があることには留意が必要です。
 
 以上が日本のタックスヘイブン対策税制の概略ですが、この税制の目的は不当に海外へ所得を移転することによる租税回避を防止することです。つまりタックスヘイブンに該当する国や地域において事業を行っていることの合理性を説明できる場合は、この税制の適用を受けないこととなり、その合理性を判定するための基準が、前述の適用除外要件という位置づけになっています。
 
※ご注意 本文は平易な文章とするよう心がけているため、各国税法上の正確な定義や取り扱いについての解説を敢えて省略しています。詳細な解説をご希望の方は国際税務の専門家にご相談ください。(この連載は月1回掲載しします)
 

 筆者紹介
フェアコンサルティング(香港)
 東京、大阪、香港、上海、ベトナム、シンガポールを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェアコンサルティンググループの香港拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士スタッフが、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務・財務戦略を企画・立案・実施支援しています。
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