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最新号の内容 -20170101 No:1470
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台湾石化業界の収益環境と
各社の事業戦略

SMBC経済トピックスでは、アジア地域において注目されている産業や経済の動向を紹介します。今回のトピックスは「台湾石化業界の収益環境と各社の事業戦略」です。台湾の石化業界では15年以降、油価下落に伴う需要増やアジア主要設備の定修・停止、大型設備のトラブル等により需給が逼迫し、各社の収益が回復しました。もっとも今後をみれば、トラブルで停止していた設備や定修明け設備の再稼動により需給バランスが緩むほか、17年以降についても、好況期に投資決定された石化プラントが徐々に立ち上がること等から、収益環境は徐々に悪化していくと見込まれています。加えて台湾では、汎用品を主体とした石化産業に対して環境への影響が懸念されており、能力拡張は難しく、石化メーカーはコスト競争力の確保が困難になってきています。かかる中、石化メーカーは汎用品生産におけるコスト競争力の追求から、高付加価値品事業の拡大や海外での汎用品生産へと戦略転換を加速させています。一方で多くの台湾石化メーカーがブランド知名度の不足や販売チャネルの不足を課題とし、これを補うべく海外メーカーとの提携意欲を強めていることから、今後の動向が注目されます。
(三井住友銀行 企業調査部<香港駐在> 貫井 孟)

 

台湾石化業界の収益環境

 台湾では石化産業のGDPが製造業の1割超を占め、電子部品、鉄・非鉄に続く主要産業となっています。石化メーカーの収益動向をみれば、2012年から14年にかけて各社の収益は悪化したものの、15年以降は回復、特に汎用品を主体とする石化メーカーが高い収益を上げています。これはアジアの石化業界において、中国における急速な生産能力拡大により12年以降多くの製品で需給バランスが悪化していましたが、15年以降、原油価格の下落に伴う需要増や主要設備の定修・停止に加え、大型設備のトラブル等もあり需給が逼迫(16年上期は計—831万1000トン、アジア全体の—14・2%のエチレン生産設備が停止)し、マージンが拡大したことが要因となっています。

 ただし今後をみれば、トラブルで停止していたシンガポールの大型ナフサクラッカーの復旧や定修明け設備の再稼動により需給バランスが緩むため、16年上期までのような好況は続かないとみられています。また17年以降については、中東等で好況期に投資決定された石化プラントが徐々に立ち上がるとみられる(調査会社ICISによれば17年に世界で+930万5000トン稼働開始予定)上、需要サイドでも世界経済の不透明化による成長鈍化等が懸念され、収益環境は徐々に悪化していくと見込まれています。なお、中国の石炭化学による石化プラント新設計画(同+138万トン)に対しては、技術的な課題や原油価格の低迷から稼働が遅れており、当面影響は限定的とみられています。

 加えて、台湾では汎用品を主体とした石化産業に対しては環境への影響が懸念されており、国営CPCのナフサクラッカーの新設計画が11年に頓挫、15年には同社の既存設備が閉鎖を迫られました。16年5月に発足した民進党政権は前政権以上に環境保護強化の意識が強く、汎用品メーカーの一部のプラントが停止を迫られています。また台湾では周辺国とのFTA締結が困難な状況にあることから、台湾の石化メーカーはコスト競争力の確保が困難になってきています。
 

図表:アジアのエチレン需給バランス推移

(出所)ICIS
(注)棒グラフ網掛け部分はアジア以外の地域合計

各社の事業戦略 ~ 高付加価値品、海外展開

 かかる状況下、台湾の石化メーカーは汎用品生産におけるコスト競争力の追求から、高付加価値品事業の拡大や海外での汎用品生産へと戦略転換を加速させています。

 高付加価値品については、台湾ではこれまで産業の規模は小さく、大手プレーヤーにとっても収益貢献は限定的でした。台湾石化メーカーは、汎用品・高付加価値品に関わらず生産を効率化させコストを削減することについて高いノウハウを持っているものの、高付加価値品の生産技術の面で日米欧のプレーヤーに対する遅れがあること、またユーザーは高付加価値品の採用に際し企業の実績や知名度を重視するため、これまでOEM/ODMビジネスが中心でブランド知名度の低い台湾石化メーカーは、一部の地場ユーザーへの販売にとどまっていること、等が高付加価値品の成長を抑えていたと考えられます。

 ただし最近では、台湾政府が石化産業の高付加価値化を加速させるべく各社へのサポートを強化、具体的には2011年に設立したHigh Value Petrochemical Industry Promotion Officeを通じて各社へ技術支援を行うほか、研究施設の新設や研究員の給与への補助金等を通じて各社のR&D機能強化を進めています。また、日本等では石化産業における上流事業の生産能力削減により一部の原料調達が困難になりつつあるため、上流事業で供給余力の大きい台湾石化メーカーの魅力が高まっています。このような中、一部の台湾石化メーカーが、ブランド知名度や販売網を有する海外メーカーの協力を得て高付加価値品の生産計画や設備の新設を進めており、今後の産業規模拡大に対する期待感が高まっています。

 汎用品事業の海外展開では、台湾の対岸に位置する福建省古雷において李長栄化学がSINOPECと石化コンプレックスの建設を進めているほか、台湾プラスチックグループは米国テキサス州に加え、ルイジアナ州でも石化コンプレックスの建設を検討する等、世界各国で事業拡大を進めています。台湾石化メーカーは汎用品事業において、安価な原料追求のため柔軟な拠点戦略を打ち出していることから、今後も海外展開は加速していくものとみられます。

 このように台湾石化業界では収益環境の悪化が予想されるなか、メーカー各社が高付加価値品事業の拡大や海外での汎用品生産へのシフトを加速させています。もっとも、多くのメーカーが引き続きブランド知名度の不足や販売チャネルの不足を課題としていることから、海外メーカーとの提携意欲は更に高まっていくとみられ、今後の動向が注目されます。

(このシリーズは2カ月に1回掲載します)

〈筆者紹介〉

貫井 孟(ぬくい はじめ
三井住友銀行 企業調査部香港駐在:
2010年より企業調査部(東京)で石油業界等を担当。2015年より香港に赴任し、現在は主にフィリピン・台湾・韓国・中国(華南地域及び香港)のエネルギー・消費財・自動車業界の調査や情報発信を手掛ける。

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