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最新号の内容 -20170101 No:1470
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日本が復活できない理由


 2017年1月20日から米国の大統領はドナルド・トランプ氏になる。安倍首相の「対応」は非常に早かった。当選10日後の11月19日にはニューヨークでトランプ氏と初会談を行った。日本にとっていかに米国が重要な国であるか、日本にとってトランプ氏がいかに重要な人物であるかを表現するにはタイムリーな訪米であった。しかし…。
(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)

 

 安倍首相訪米の理由は、金融面から見て①急激な円高阻止②協調的な財政出動③米国株高=日本株高の連鎖——を守るための訪問という意味もあったように思う。まず「急激な円高阻止」とは、トランプ氏が当選して以来、一時1ドル(米ドル)=101円台から114円台にまで一気に円安が進んだ。その背景にはトランプ氏が大統領になったら、まず公約通りに公共事業を大いに拡大させる。そして減税を実行し持続的な景気回復を実現させるといったメッセージがある。つまりインフレが加速するので、米利上げが早期に実現する。

 ドル金利の上昇を見込んで手元のローカル通貨を売り、ドルを買う。つまりドル高が大いに進んだ。新興国の通貨安は諸外国からの投資資本の流出を招くケースがある。投資先の通貨安を懸念して資本が逃げると現地通貨売りのドル買いが起こる。そして新興国の通貨が急落する。新興国の通貨急落は輸入物価を押し上げてインフレを加速させる。インフレが加速すると購買力が落ちて、景気後退局面に入るという悪循環である。日本にとっては円安が進行するとデフレに歯止めが掛かるのと、デフレに歯止めが掛からない場合は、金融政策として量的緩和政策をとることが出来る。日本政府も日本銀行もなんとかしてデフレの悪循環を断ち切りたいから円安傾向は大歓迎なのだ。

 次に「協調的な財政出動」は、トランプ氏が公共事業に莫大な財政支出を行うことは、財政悪化を懸念する日本の財政出動をも勇気付ける。米国の借金が増えるのだから日本の借金も相対的に目立たなくなるダイリューション効果である。ユーロ圏も、アジアも追随しようものなら、日本の財政悪化はそれほど気にする必要がなくなる。

 3つ目の「米株高=日本株高」は国際ポートフォリオ上、ファンドマネジャーは例えば米国株の比率を50%、ユーロ株の比率を30%、日本株の比率を30%と決めている。米国株が上昇すれば、その比率を遵守するために日本株買いに入る。自動的に日本株買いが入るというシステムである。「トランプ相場」が続けば、日本国民のメリットに繋がると安倍政権は読んでいるはずである。
 

戦後レジーム脱却に逆行

 ところが問題は対米追従外交が行き過ぎると第一次安倍政権時のモットーである「戦後レジームからの脱却」が実現出来なくなる。戦後レジームとは戦後に出来上がった世界秩序の体制(ヤルタ・ポツダム体制)や制度の事を指す。現代の日本では主に大東亜戦争での日本の降伏後、GHQによる占領下で出来上がった日本国憲法をはじめとする法令等を意味する言葉となっている。安全保障を踏まえての安倍首相の行動であることは簡単に察しが付くが、現在の世界では米国はもはや覇権国ではない。

 ユーロ圏は独自に行動しているし、アジア諸国はカンボジア、ラオス、フィリピンのように米国一辺倒ではなくなった。中東では米国が自ら親米国家を潰したのにも関わらず「アラブの春」と呼ばれている。日本も本来ならば多面的な外交を考える局面に来ているのは間違いない。安全保障面では米国と組み、資源外交ではロシアや中東と組む、また経済政策では中国と連携し、テクノロジー分野ではイスラエルと協力する。

 安倍政権の執っている外交政策は、戦後レジームへの回帰なのかもしれない。よく外国人から日本の政治は安定していると言われる。確かに英国はブレグジットでユーロ離脱、米国ではトランプ旋風、イタリアではチプラス首相が辞任を表明、他のユーロ圏諸国では右派が台頭し現政権の存在も安泰ではない。各国共にいつ政権交代が起きてもおかしくはないのだ。お隣の韓国も朴槿恵・大統領がスキャンダルで来年4月の辞任が決定している。日本の安倍政権は少なくとも2020年の東京五輪までは続くとみられている。

 なぜ安倍政権が長く続くのか? 答えは日本に右派とみられる政党が存在しないからだ。マスコミは安倍政権を右派政権として仕立て上げたいようだが、安倍政権のどこが右派なのか非常に疑問である。昨年末、年の瀬も迫ったギリギリに突如として湧いた従軍慰安婦問題の解決(慰安婦像の撤去と慰安婦に対する補償金の支払い)は結局、10億円の拠出をさせられたが、慰安婦像はその後も増加。ロシアとの北方領土問題にしてもエネルギーの共同開発の見返りに北方四島(あるいは二島)の返還を求めるも、返還は実現しない可能性が高い。これは右派政党の姿ではまったくない。
 

20年まで何も変わらない 

 つまり「健全な右派政党、中道右派政党が日本にはない」から戦後レジームからの脱却は実現不可能なのだ。日本には左派、中道左派政党しかない。ユーロ圏のフランス、ドイツ、イタリア、ギリシャでは健全、不健全は別として右派政党が育ってきている。いわゆる「自国第一主義政党」である。恐らく日本が変革を迎える時は「日本第一主義」政党が出てくるに違いない。日本が良く変わるのか悪く変わるのかは分からない。なぜならばその時の世相が時の政党に味方するからである。日本人がその時まで我慢し過ぎて鬱憤を一気に晴らそうということであれば、少し危険な香りがするが、庶民が生活にまだまだ我慢出来るレベルであれば健全な政党が誕生してくるかもしれない。

 これまで長年にわたって日本国民は毎度「景気回復を優先」という日本政府の甘言に騙され続けてきた。そして現在はこの「安定政権」である。また来年も同じ事を繰り返すのか? 残念ながら来年どころか、少なくとも2020年ごろまでは同じ事の繰り返しとなると考えていた方がよさそうだ。

 

トム:ASKAがまた覚せい剤取締法違反で捕まったよなあ。やっぱり覚せい剤って一度やるとやめられないんだろうな。

ジェリー:六本木や新宿の裏通りでは、密売人が簡単に見つかるそうよ。 

トム:ほんと、自動販売機で缶ジュースを買うよりも簡単に買えるようになったよな。価格が違うだけだろう。しかしお前やたらと詳しいな。ひょっとこして・・・。

ジェリー:ひょっとして! 思わず口びるを尖らせてしまったじゃない。

トム:わしは白い粉で好きなのと言えば、たこ焼きの元ぐらいのものだから、まったく無縁だ。予め言っておくぞ。

ジェリー:また寝ぼけた話を。ASKAが逮捕前にタクシーで移動していたでしょう。そのタクシーの様子が公開されてプライバシー侵害といった問題も取り上げられたよね。

トム:ASKAも素性がバレたのはマスクの付け方が甘かったんじゃない? ザ・デストロイヤーのマスクだったらバレなかったかもしれないよな。

ジェリー:あんな見え見えのマスクじゃバレるわよ〜。 やっぱり「千の顔を持つ男」ミル・マスカラスでしょ。スーパーストロング・マシンでもいいよね。

トム:いやいや、13日金曜日のジェイソンという手もあるぞ。怖いなあ。貞子のように長い髪でも表情が見えない。

ジェリー:ASKAがそんな恰好していたら、ゲゲゲの鬼太郎と間違えられるでしょ。中途半端なんだよな。

トム:まあ白い粉にはお互いに気を付けような。気持ち良く新年を迎えたいだろ。

ジェリー:お餅や雑煮、こっちの方が健全ね。のどに詰めないように、皆さんも良いお年をお迎えください。
 

【ドナルド・トランプ大統領】 

 第45代アメリカ合衆国大統領となる。不動産会社トランプ・オーガナイゼーションの会長兼社長で、カジノ・ホテル運営会社トランプ・エンターテインメント・リゾートの設立者。大統領選では得票数において民主党のヒラリー・クリントン候補がトランプ氏を上回っていたが、選挙人獲得数ではトランプ氏がヒラリー氏を上回り、トランプ氏の勝利が確定した。ほとんどのメディアはヒラリー候補が勝利すると予想していた。トランプ氏はキャンペーン中、女性蔑視発言や人種差別発言があり批判を受けたにも関わらず、中間層や貧困層を味方に付けて当選した。

 

 筆者紹介

沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインベストメントマネジメント(アジア)代表取締役

ユダヤ人パートナーと資産運用会社、ICGインベストメントマネジメントを共同経営。ユダヤ系を含め約2億米ドルの資産を運用する。2012年に中国本土でイスラエルのハイテク企業と共同出資でマルチメディア会社を設立。ユダヤ人コミュニティと緊密な関係を構築。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損をしなかった理由」等多数。
(URL:http://www.icg-advi sor.net/)

※このシリーズは月1回掲載します