中国における関連者間取引と 2016年6月29日、中国の国家税務総局は「関連者間取引申告と同期資料管理の整備に関する公告」(以下「42号公告」と呼ぶ)を公布しました。当該公告は、BEPSの行動計画13における勧告内容が実質的に中国において実施されることを意味しており、特に中国でビジネスを展開している企業にとっては無視できない内容となっているため、本稿を通じて、その内容を解説いたします。2016年11月に寄稿した基礎編に続き、今回は、42号公告の変更点の詳細、特に在中日系企業にとって影響の大きい内容を中心に解説していきます。(デロイト・トウシュ・トーマツ香港事務所 フローラ 曽)
⑴同期資料の管理の変更点について 42号公告以前、中国の国家税務総局は「特別納税調整実施弁法(試行)」(2009年公布。以下「2号通達」と呼ぶ)に基づき、中国における企業の移転価格事項を管理してきました。42号公告は、2号通達における関連者間取引申告と同期資料の管理に関する内容を改正するものです。ここでまずは同期資料の管理に関する変更事項についてまとめます。
⑵ローカル文書に関する特別な要求 42号公告にて、中国における特別な要求として、ローカル文書において開示を要求される情報は2号通達よりも大幅に増えました。特に以下の2点は、中国会社のみならず、グループ全体にかかわってきますので、特に注意を払うべき事項だと考えられます。 ①バリューチェーン分析 42号公告において、価値貢献とバリューチェーン分析の概念が複数回の記述で強調されており、どのような移転価格方法を採用しているかにかかわらず、ローカル文書でバリューチェーン分析を実施することが要求されています。 具体的には、企業グループ内の業務フロー、物流および資金フロー、企業グループ利益のグローバルバリューチェーンにおける配分原則と配分結果に対する分析があげられます。業界/業種によって異なりますが、華南における製造・販売系の典型的なバリューチェーンは図のように考えられます。 左図のバリューチェーンにおいて、グループ各社が負担している機能とリスク、使用している資産状況などに基づいて貢献度を分析し、グループ各社の貢献度によって、税務機関は企業の獲得すべき利益水準を判断します。業界の特徴により、バリューチェーンにおけるいずれのセクターも重要な価値貢献要素となる可能性があり、特定のセクターが、他業界への価値貢献度が大きいと判断される可能性もあります。例えば、ぜいたく品業界においては、知名度やマーケティング活動がグループ利益全体に対して大きく貢献するため、ブランド宣伝・マーケティング活動は当業界のバリューチェーンにおいても多くの利益を配分すべきと考えられます。
また、多国籍企業グループについては、バリューチェーンの観点からグループ全体の経営活動を把握した上で、中国の同期資料においてバリューチェーンや価値貢献度合いを合理的に説明し、かつグループの移転価格ポリシーと整合させる必要があります。 ②地域性特殊要因 地域性特殊要因は、特定の国・地域にビジネスを展開する際に、その地域・国において特有のプラス・マイナス要素と考えられます。これまでは中国の一部の事前確認(Advanced Pricing Agreement)と移転価格調査で要求された分析要因ですが、2016年からはすべてのローカルファイルでも要求されます。例えば、頻繁に取り上げられる事項として、ロケーションセービング(Location Savings)とマーケットプレミアム(Market Premium)があげられます。 ・ロケーションセービング—企業が低コストの国でビジネスを展開することによりコストを節約すること。例えば、同じ製品を造る場合、日本では人件費が40、中国では20とすると、中国で製造事業を展開することにより、20のコストを節約できるため、この20がロケーションセービングによる利益と考えられます。 ・マーケットプレミアム—市場の特徴(市場規模、政府の産業奨励政策、消費傾向など)が販売価格に影響を与えること。例えば、同じ商品が、成熟市場では売価70でしか売れないが、新興市場ではニーズが大きいため、売価100で売れた場合、差額の30について、マーケットプレミアムによる利益と考えられます。
⑶日系企業への影響 国際的な移転価格動向への意識の高まりを背景に、中国でも企業の移転価格問題に対して注目されつつあることから、専門家による助言を踏まえて、より慎重に対応していくことが必要となります。また、従来、中国子会社任せにしていた移転価格同期資料についても、今後は中国統括会社や日本親会社との整合性を確保した上で展開することが望まれます。 (このシリーズは月1回掲載します) 筆者紹介
フローラ 曽(Flora Zeng)
連絡先:flozeng@deloitte.com.hk ※本記事には私見が含まれており、筆者が勤務する会計事務所とは無関係です。 |
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