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最新号の内容 -20161021 No:1465
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香港企業はいかに一帯一路を利用して
海外進出するのか?(前編)

 


香港経済—今月のポイント

①香港企業は、一帯一路の機会を利用して海外進出し、管理や運営サービスを提供することで沿線国の空港、鉄道、港湾といったインフラ建設の管理や運営に協力できる。また、現地の人材トレーニングに協力し、一帯一路沿線国でのインフラ建設の人材需要に対応可能である。後者は、香港のマネジメント人材の視野や人脈の拡大につながり、より多くの企業の海外市場での発展に協力できるであろう。

②一帯一路戦略は、中国本土とアジア、欧州、アフリカ諸国との関係強化、貿易活発化につながり、アジアの空運、海運のハブである香港に利益をもたらすだけでなく、香港の物流業の新市場開拓の契機にもなると考えられる。また、一帯一路がカバーする国は、高収入や高成長の国が少なくないため、香港のホテル業は、これらの国の観光客の開拓や、現地でのホテル業の発展を模索することも可能とみられる。

③香港企業は、一帯一路の沿線国に直接進出するだけでなく、本土企業の海外進出に協力することで、本土と一帯一路沿線国との間の橋渡し役を担うこともできるであろう。また、香港の金融機関は、企業の資金調達や外貨決済、リスクヘッジなどのサービスを提供できるほか、他のサービス業も財務や法律、リスク評価、コンサルティングなどのサービスを提供できる。さらに、観光業は、言語や国際的な視野において優位性を持つため、本土の海外旅行客の仲介者として、観光コンサルティングなどのサービスを展開できると想定される。
 

図表:区域内(GDP)に占める各産業の割合


 本土は一帯一路建設を提唱することで、アジア、欧州、アフリカの国々との経済・貿易、インフラ建設、文化など多方面での協力を強化し、相互の発展を促進する狙いである。一帯一路は、「シルクロード経済ベルト」および「21世紀海上シルクロード」を指す。前者は、①本土から中央アジア、ロシアを経て欧州、②本土から中央アジア、西アジアを経てペルシャ湾、地中海、③本土から東南アジア、南アジア、インド洋を結ぶ3本の幹線ルートから成り、後者は①本土の沿海港湾から南シナ海を経て、インド洋、欧州を結ぶルート、②南シナ海を経て南太平洋を結ぶ2本の主要ルートから成る。

 本土では景気減速を背景に、ニューノーマルの時代に突入するなか、当局は供給サイドの改革を推進し、企業のコスト低減や行政効率の引き上げ、新市場の開拓を通じて経済の活力を引き上げ、長期的で健全な成長を維持しようとしている。一帯一路戦略は、本土の国有企業や民営企業の海外進出を通じた新市場の開拓、海外企業との提携を促し、業界の構造転換・高度化、さらには競争力の強化につながるものである。

 

一帯一路を足掛かりに海外進出

 では、香港はどのような役割を発揮できるであろうか。一つ目は、長年にわたり海外企業の本土市場進出の足掛かりとなってきた香港は本土企業の資金や技術、人材を引き入れに協力できるとともに、本土企業の一帯一路沿線国への進出に際し、金融やマネジメントなどの専門サービスを提供できる。二つ目は、香港企業は一帯一路を利用し、海外進出して関連国の工場建設や投資、人材トレーニング、インフラ建設の管理に携わることができる。昨年、香港の貿易総額はGDPの4倍だった。今後一帯一路沿線国との財およびサービス貿易が増大すれば、長期的にみて、香港経済の新たなエンジンになり得るであろう。

 香港企業による一帯一路沿線国への認識、各国の政治体制、社会構造、文化習慣に対する理解は深くない。香港とこれら国々の社会や文化の差異が、香港企業の一帯一路沿線国への進出の足かせになるとの認識も少なくない。しかし、企業が重視するのはあくまでもビジネスチャンスであり、政治や文化といった要素は必ずしも決定的な要因になるわけではない。例えば、本土は社会主義で、香港とは法律、ビジネスルール、さらには言語や生活習慣も異なるが、香港のメーカーは1980年代からコスト削減のために本土に進出。香港のGDPに占める工業の比率は1980年の32%から1996年には16%にまで低下した(図表)。このように香港企業は、本土の政治、経済の政策リスクを見極めつつ、短期間で本土進出のチャンスを掴んだのである。さらに、香港のメーカーの一部は、カンボジアやバングラデシュ、ベトナム、ミャンマーなどの一帯一路沿線国にも既に投資している。

 

沿線国のインフラ管理・運営

 一帯一路戦略は、香港企業の海外進出の契機となるが、重要なのは如何に海外進出するかである。香港のサービス業は、競争優位性を持つ産業の一つで、サービス業のGDPに占める比率は92%に達する。一帯一路戦略の推進を通じ、沿線国ではインフラ建設投資が大幅に増える見込みで、香港企業は空港や鉄道、港湾などのインフラ建設の管理や運営サービスを提供できると考えられる。香港国際空港は、世界でも屈指の空港で、これは香港空港管理局の高水準な運営能力を反映している。また、香港の電力会社は早期から東南アジア市場に進出している。

 香港企業は、インフラ建設の管理・運営サービスのほか、人材トレーニングサービスの提供も可能とみられる。今年初め、香港鉄路有限公司は鉄道プロジェクトやマネジメントなどの専門人材の育成を目標に「港鉄学院」を設立。今後は、本土や海外にも学院を建設する計画で、こうした動きは、一帯一路沿線国でのインフラ建設の人材需要に対応できるであろう。

 香港企業は1980年代から、本土で工場建設投資を進めるとともに、人材育成にも努めてきた。こうした経験を基礎に、一帯一路沿線国でも人材育成に参画することができよう。これは、香港のマネジメント人材の視野や人脈の拡大にもつながり、より多くの企業の海外市場進出に協力できるであろう。とりわけ、専門技術やサービス業に従事する若い専門人材は、80年代の本土進出のメーカーの成功体験を参考とすることが可能ではないだろうか。

(恒生銀行「香港経済月報」8月号より。このシリーズは月1回掲載します)