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最新号の内容 -20160916 No:1463
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『クリーピー 偽りの隣人』が公開
黒沢清監督インタビュー

 

  今春の香港国際映画祭でクロージングフィルムとしてアジアプレミア上映された『クリーピー 偽りの隣人』が、9月22日から香港で公開される。同作は未解決の一家失踪事件と奇妙な隣人家族という2つの謎が絡み合うサスペンス・スリラー。メガホンを取ったのは、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門において、『トウキョウソナタ』で審査員賞、『岸辺の旅』で監督賞を受賞するなど、国際的に活躍する黒沢清監督だ。香港国際映画祭への参加で来港の折、黒沢監督に話を聞いた。

(聞き手・綾部浩司/取材協力と写真提供・HKIFF、Edko Films Ltd.)

※映画のあらすじなどは13面に掲載

 

香港国際映画祭クロージング上映で舞台挨拶する黒沢監督

——映画『クリーピー 偽りの隣人』の原作は前川裕氏の小説『クリーピー』ですが、日本で起きたさまざまな陰惨な事件を想起させられる部分を感じました。映画は実際に起きた事件と何か関係がありますか?

 前川氏の小説を一読して、実際にあった事件を元にしているだろうなとすぐにわかりました。小説の大体の筋書きは原作からいただいていますが、この映画は最終的にはある種のフィクションとして、もっと言うと一種のファンタジーとして、怖がりながらも楽しんでいただければいいなと思って作りました。

——万が一、陰惨な事件を起こした犯人が「黒沢清監督の映画を観て事件を起こした」と言われたりしたらどうしよう、と思ったことはありませんでしたか?

 幸いこのようなことは起こっていないので大丈夫だと思いますけれど、考えると怖いですよね。よく言われていますけれども、同じ映画を観た人が皆そうなる(事件を起こす)わけではないですし。ホラー映画とかは偏見を持たれていて、今でも凶悪犯人の部屋には残酷なホラー映画がたくさん並んでいた、みたいなことがニュースになることがありますが、そうだったら僕のDVDの棚なんか凶悪犯の典型だよな、と思います…。

 僕は、観ている人がすべてそうなるということはまぁ無い、観たのが理由でそうなるということは無い、と信じています。ただ元々そういう傾向にある人が好んでそういう映画を観てしまうことはあるかもしれませんね。だから「どうしてそんなことをしたんだ?」と聞かれ「映画でやっていたから」と、まぁわかりやすい理由を口にすることはあるかもしれませんね。現実はなんでもありですから一概には言えませんけども。想像を超えるような事件が起きていますよね。

映画のワンシーン ©2016 Creepy Film Partners

——映画のこぼれ話をお聞かせください。

 こぼれ話とは言えないかもしれませんが、映画はそれなりに陰惨で結構残酷な人間同士がどこか争う凄惨な物語の内容なのですが、そういう撮影現場ほど、まぁ俳優たちはいつも明るく仲良かったですね。竹内さんも香川さんもペラペラしゃべっていてね。こんな凄惨なドラマを撮っているとはよもや思えない朗らかな現場で、俳優ってわりといろんな人がいるんですけど、今回集まってくださった俳優はみんなバランスを取る方でしたね。ドラマがこんな残酷な内容なので、休み時間は楽しくおしゃべりしましょうよ、休み時間まで暗い顔をしていたら本当につらいじゃないって感じでした。僕もそういう現場が好きなんですが、「これから殺人シーンがあるけど大丈夫かな?」と僕も不安になるような、いつになく楽しい明るい現場でしたね。

——香港国際映画祭について。

 日本では監督同士が会えそうでまず会えないのですが、海外の映画祭ではたいてい会えます。少し前に撮った『トウキョウソナタ』は日本で作った映画ですが、制作会社は香港をメーンとするオランダの会社でした。この会社のプロデューサーを務めていたオランダ人と香港で出会い誘われたのがきっかけで撮ったのが『トウキョウソナタ』です。香港国際映画祭での出会いがなければ、『トウキョウソナタ』という映画は無かったかもしれません。ですので、香港映画祭での出会いはとても大きいです。

 昔は若い新人の映画監督はそう簡単に海外の映画祭には行けなかったけれど、今はデジタルで簡単に見せられる、フィルムと違ってデジタル映像だと字幕などもすぐ入れられるということで、日本の新進映画監督が海外の映画祭にどんどん出ていますよね。若い才能のある日本人監督は日本でよりむしろ海外で知られていることがあります。日本で無名か有名か、ベテランか若いか関係なく、「これは才能がある」と思ったら海外の映画祭の方が日本国内よりもすぐに目をつけます。

——香港の印象はいかがですか

 今回香港に来るのは5回目くらいです。香港は大好きなので毎回楽しいのですが、来るたびに変わる所は変わって、全然変わらない所は変わらないですね。世界の大都市というのは大体そういう傾向はありますが、香港はそれが最も極端だな、と感じます。高層ビルは来るたびにどんどん建っている一方、2階建てのトラムやスターフェリーは全然変わらないですよね。変わっていく部分と変わらない部分が同時にある、というのが香港の楽しみです。