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最新号の内容 -20160916 No:1463
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港人港地

不動産市場の過熱抑制策として特区政府が進めていた香港永住者限定住宅「港人港地」の販売が開始された


 東九龍の旧香港国際空港(啓徳空港)跡地に建設が進められている住宅物件「啓徳1号(1)/One Kai Tak(1)」第1陣の購入申請受け付けが8月25日に始まり、9月3日の販売初日に完売した。

 啓徳1号(1)は「港人港地」と呼ばれる香港では初めて香港永住者に限定して販売される住宅開発プロジェクト物件の一部。「港人港地」は不動産市場の過熱抑制策として特区政府が進めてきたもので、物件は用地供給から30年以内は新築・中古を問わず香港の永住権所有者しか購入できず、企業名義での購入は禁止されている。また、転売・賃貸には地政総署の同意が必要で、消費者金融による住宅ローン提供も認められないなどの制限が設けられている。2012年に特区政府が土地放出リストに啓徳1号を含む2カ所の土地を盛り込み、2013年に中資系デベロッパーの中国海外集団が45億4000万ドルで開発権を落札。傘下の「中国海外地産」が開発を進めている。

啓徳空港跡地とその周辺の開発計画は2004年から検討が重ねられていた(写真提供:特区政府新聞処)

 今回販売された啓徳1号(1)は8棟計545戸、1戸当たりの面積は367〜1663平方フィート、2017年10月の完成を予定している。価格はMTR九龍駅、奥運駅などの沿線物件を参考に設定され、申請受け付け開始当初は売り出し戸数110戸、1平方フィート当たりの販売価格は1万7100ドル、購入時の割引や税金の優遇などを差し引いた実価格は1万4400ドル余りと報じられた。その後、8月29日に190戸の追加販売が決まり、売り出し個数は計300戸となった。追加販売は、28日までの購入申請が競争率約37倍の4200件に達し、九龍湾に設置されたモデルルームに4日間で2万人余りが見学に訪れるなど市民の反響の大きさに応えたものだが、価格は当初の同1万7100ドルから4%引き上げられた。

 「港人港地」の人気の高さは、中国本土資本の流入により高騰を続ける不動産価格に不満を鬱積させていた中間所得層や若者層が「香港人のためだけの不動産」という特区政府の香港人優遇策を評価した表れと言える。

 特区政府はこれまでも本土住民の投機による不動産市場の過熱抑制に印紙税の引き上げなどさまざまな策を講じていた。2012年から2015年には香港房屋協会が長沙湾に「港人港楼」と呼ばれる5カ所の物件を開発・販売。競争率は最も高い物件で二十数倍に上り、いずれも好評のうちに販売を終了している。

 「港人港楼」は企業名義では購入できず、実需目的の購入者を主とするなどの制約はあるが、「港人港地」のように販売対象を永住者に限定せず香港身分証保有者であれば購入申請ができるようになっていた。これに比べて「港人港地」は香港人のための不動産の色合いをさらに強く打ち出しており、啓徳空港跡地という立地も市民のカタルシスをより強く刺激したようだ。

 ただ、香港永住者限定物件だからと言って投機色が薄くなっているかといえば、そうでもない。東九龍の啓徳空港跡地とその周辺は、従来の住宅を主とするニュータウン開発とは異なり、オフィス、ホテル、大型ショッピングセンター、レジャー施設、すでに運用を開始している大型客船ターミナル、啓徳郵輪碼頭(カイタック・クルーズ・ターミナル)などを含む多角的な開発計画が打ち出されている。また、MTRの新路線、沙中線やモノレールも開通する予定で、周辺の住宅価格は軒並み上昇傾向にある。啓徳1号(1)のモデルルーム見学者も「転売などで制限はあるが、立地はMTR駅に近く、価格も合理的」と語っており、中国海外地産の游偉光・社長は、第1期の申請者のうち約30%は今後の発展を見越した投資目的とみている。

2012年に運用を開始したカイタック・クルーズ・ターミナル

 梁振英・行政長官は2014年4月の段階で非香港住民による住宅需要は非常に小さいとして、「これら政策は不動産市場が過熱している際にだけ実施するものである」と述べている。実際、本土住民による香港の住宅購入の割合(件数)はピーク時の2011年第4四半期で14・4%を占めていたが、2013年第1四半期には5・1%にまで縮小し、その後はわずかな増減を繰り返し、減少傾向に向かっている。このため、今後新たな「港人港地」や「港人港楼」プロジェクトが行われるかどうかは不透明だ。
(このシリーズは1カ月に1回掲載します)