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最新号の内容 -20160916 No:1463
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〈65〉
非居住者に係る
金融口座情報の自動的交換制度


 月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国等を中心とした税金等に関する問題についてご紹介させていただきます。前回は、税務当局が富裕層の財産を把握するための制度として創設された財産債務調書制度及び国外財産調書制度について解説しました。今回は、租税回避に関連して、非居住者(租税条約相手国の個人・法人等)の金融口座情報を各国税務当局間で自動的に交換できるように、非居住者の金融口座情報を国税庁に報告することを金融機関に求める「非居住者に係る金融口座情報の自動的交換制度」について解説します。


制度の背景

 米国では2008年のスイス大手銀行の銀行員による脱税ほう助事件を契機に、租税回避を防止することを目的とした「外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)」が2010年3月に成立しました。これにより米国内国歳入庁(IRS)は、米国外の金融機関に、米国人口座の情報提供を求めることができるようになり、情報提供に同意しない口座等に対する米国源泉所得には30%の源泉徴収が行われることとなりました。
 一般的に、各国の税務当局は、自国民が外国で保有する金融口座に関する情報を収集するのは困難なため、米国のFATCAを契機として、外国の金融機関を利用した国際的な脱税等に対応するため、経済開発協力機構(OECD)が加盟国等を対象に非居住者の金融口座情報の自動的交換を行う共通報告基準(CRS)の策定を進め、2014年2月に公表しました。この取組みには、100以上の国または地域が参加を表明しており、各国の税務当局が非居住者の口座情報を自動的に交換し合うことで、適切な税務行政に資することが趣旨とされています。

 

共通報告基準の概要

 「共通報告基準」は、自動的情報交換の対象となる非居住者の口座の特定方法や情報の範囲等を各国で共通化する国際基準です。これにより、金融機関の事務負担を軽減しつつ、金融資産の情報を各国税務当局間で効率的に交換し、外国の金融機関の口座を通じた国際的な脱税および租税回避に対処することを目的としています。
 各国の税務当局は、それぞれ自国に所在する金融機関から非居住者(個人・法人等)に係る金融口座情報の報告を受け、これを租税条約等の情報交換規定に基づき、各国税務当局と自動的に交換します。

金融口座情報を報告する義務を負う金融機関:銀行等の預金機関、生命保険会社等の特定保険会社、証券会社等の保管機関及び信託等の投資事業体
報告の対象となる金融口座…普通預金口座等の預金口座、キャッシュバリュー保険契約・年金保険契約、証券口座等の保管口座及び信託受益権等の投資持分
報告の対象となる情報…口座保有者の氏名・住所(名称・所在地)、居住地国、外国の納税者番号、口座残高、利子・配当等の年間受取総額等

 報告義務を負う金融機関は、共通報告基準に定められた手続きに従って、口座保有者の居住地国を特定し、報告すべき口座を選別します。当該金融機関が行う具体的な居住地国の特定は、新規口座開設については口座開設者から居住地国を聴取する等し、既存の口座については口座保有者の住所等の記録から行います。


日本の制度の概要

 日本では、2015年度税制改正で、共通報告基準に従った情報交換を実施するため租税条約等実施特例法令の改正が行われました。具体的には、2017年1月1日以後、銀行、証券会社、信託会社、保険会社などの一定の金融機関で、預貯金口座・有価証券口座の開設、信託契約・保険契約の締結などの特定取引を行う者は、氏名・名称、住所、生年月日、居住地国、居住地国が外国の場合は当該国の納税者番号などを記載した届出書の提出が義務付けられます。報告金融機関は、当該特定取引を行う者が租税条約等で定められている国・地域の居住者である場合、12月31日時点の報告対象契約に関する前記の情報および関連する財産の価額や運用・保有・譲渡による収入金額その他の情報を、翌年4月30日までに税務署に提出することとなります。初回の情報提出は、2017年12月31日時点の情報について、2018年4月30日までに行うこととなります。

 日本がCRSに参加する2018年以降、日本の金融機関は日本にいる外国居住者の口座情報を国税庁を通じて外国の税務当局に提出することとなります。一方で、国税庁は、日本国内の居住者(個人・法人)が外国に保有する口座情報を外国の税務当局から自動的に入手することが可能になります。

 新規届出書等の未提出もしくは偽りの記載などがあった場合には、6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されることもあるようなので、正確な届出書提出が必要となります。
(このシリーズは月1回掲載します)


筆者紹介

フェアコンサルティング(香港)

 東京、大阪、香港、上海、蘇州、台湾、ベトナム、フィリピン、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、メキシコを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェア コンサルティンググループの香港拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士スタッフが、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務・財務戦略を企画・立案・実施支援しています。
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