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最新号の内容 -20160916 No:1463
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▶106◀

中国労務② 
中国における人事制度の概要


 7月に広東省の各都市では社会保険基数の改定がありました。このタイミングで、ナショナルスタッフの昇給を実施される日系企業様もあるかもしれません。また、日本に合わせて7月に夏の賞与を支給されたという企業様も多いのではないでしょうか。この昇給実施・賞与支給という時期は、管理者である現地駐在員の皆様にとって大変頭を悩ますとともに、ナショナルスタッフの処遇をどのように決定していくか、人事制度について考える機会ともなります。今回は中国(大陸側)で人事制度を改正・導入する時に留意すべき点や日本の人事制度との違いについて概要を述べさせていただきます。(NAC名南広州事務所 福家 大輔)

図表 職能資格制度と職務資格制度


職能資格制度と職務資格制度

 中国国内に現地法人を開設された際に、日本本社様で運用されている人事制度を持ち込まれた企業様が多いと思います(あるいは初期段階では制度自体無かったという企業様もいらっしゃるでしょう)。組織の規模が小さく、少人数であるうちはそのような形でも問題はありませんが、社員が増加し昇給を何年も繰り返していくうちにフィットしなくなって来ます。これは日本と中国で人事制度が大きく異なることに起因します。今でこそ「同一労働同一賃金」という言葉がニュースで話題になっているとはいえ、高度成長期以降これまで、長年日本国内における正社員の人事制度はそのほとんどが職能資格制度に基づき設計・運用されてきました。しかしEU諸国を始めとする海外では多くの企業が(ポジションにもよりますが)職務資格制度を採用しています。職能資格制度と職務資格制度の違いについては別表をご覧ください。

 中国も比較的後者に近い制度が合う土壌です。中国では社員各々がその担当業務レベルに基づいた給与を支給され、企業内でも職務内容によって給与に差があるのが普通です。そのため、組織全体を同じ等級表で区分し処遇を決定する日本の職能資格制度の運用は困難となります。では中国で一般的な職務資格制度をそのまま導入することは可能でしょうか。職務資格制度では職務と給与が対応している以上昇給が無いですが、従業員のモチベーションを考慮し、かつ給与マーケットから外れないようにするため、中国では現状継続的な昇給が必要となるでしょう。更に職務資格制度では、等級が上がることとポジションが上がることがほぼ同じ意味となりますが、直ぐ上のポジションが詰まっていると「待ち」の状態となり、人材の流動性が高い中国では辞めてしまう危険がありますので、スムーズな昇格・昇進が可能となる仕組み作りも必要となります。

 一方、上述の「同一労働同一賃金」の日本における本格的な導入に関しては、非正規雇用の格差問題がよりクローズアップされがちですが、長年職能資格制度を運用してきた日本国内の企業が、海外で広く採用されている職務資格制度をどのように導入するかが論点となりそうです。

 

中国での制度改定時の注意点
 
 1つは組織内における従業員個人のキャリアパスがしっかりと描ける制度とすることです。人事制度が各従業員の組織内での現在位置と、何をどう頑張れば仕事を任されキャリアアップしていけるかの道筋が明確に開示されていることが重要です。もう1つは企業への貢献度(業績、能力、自己研鑚)に応じて、メリハリのついた処遇を行うことです。企業様からのご要望でも良くありますが、頑張った人がやった分だけ昇格・昇給・賞与に反映される仕組みであることが肝要です。この2つに共通するのは①従業員一人ひとりのモチベーション向上にウエイトを置く②曖昧さを回避する、です。いずれも、国民性・常識・商習慣等に由来していると考えます。一般的に中国の企業組織では自然発生的なチームプレイというものはほとんど期待できません。そこで、個人がスタンドプレイに走ることは前提と考えつつそのモチベーションを上手く引き出し、個々の働きが結果的にチームワークを生むような制度にすることが理想だといえます。また、制度内に曖昧さや恣意的に運用可能な部分がありますと、自己主張の強いナショナルスタッフが納得するまでとことん質問をしてきますので、それを未然に防ぐため、どうとでも取れるようなものは避け、具体的で明確な、誰が見ても同じ理解・判断を出来るものとしておくべきです。但し一部についてはいざという時のため、完全にシステマチックにしてしまうのではなく、少しの調整可能な要素を残しておくことも必要となりますが、具体的には次回以降随時述べたいと思います。

 さて、人事制度を設計する際の3つのフレームは、①等級制度②給与制度③評価制度となります。果たす役割はそれぞれ、①従業員の役割、責任、能力を基準に社員一人ひとりに等級を付ける②給与(各種手当含む)についてどのように決められるかはっきりしたルールを作る③各従業員を評価し、昇給・賞与・昇格という処遇に反映させる、です。中でもコアとなるのが評価制度です。評価制度がしっかりしていない人事制度は、導入後の運用が非常に困難となります。次回は人事制度のフレーム3つのうち1つ目の等級制度について説明させていただきます。

(このシリーズは月1回掲載します)


福家 大輔 (ふけ・だいすけ)

NAC名南コンサルティング広州事務所/ マネージャー
同事務所にて人事労務コンサルティング、および付随する会計税務コンサルティングを担当。日系大手人材紹介会社での豊富な経験を経て現職。関西外国語大学卒。
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