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最新号の内容 -20160916 No:1463
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 「華南ビジネス最前線」では、お客様からのご質問・ご相談が多い事項について、理論と実務の両方を踏まえながら、できるだけ分かりやすく解説します。第95回となる今回は、「深圳市環境保護条例改正案:罰則強化による実効性向上を狙う」について取り上げます。(三菱東京UFJ銀行 香港支店 業務開発室 アドバイザリーチーム)
 

#95 深圳市環境保護条例改正案:
     罰則強化による実効性向上を狙う


今月の質問

深圳市政府が環境保護条例の改正案を発表したと聞きました。その内容について教えてください。


 深圳市政府は2016年8月4日より、「環境保護条例草案(改正)」(以下「草案」)について公開意見徴収を行っている。当該改正案は環境保護における基本法として、1994年に施行された。2000年、2009年に続く三回目の改正となる今回は、罰則強化による実効性の向上を狙っている。本稿では、「草案」の内容について紹介したい。
 

⒈背景

 中国では、環境問題に対する対応を強化している。既に90年代から高成長に伴う環境悪化が大きな問題となっており、中国政府は第11次5カ年計画(2006〜2011年)から火力発電所の脱硫装置導入、重点流域における水質汚染の改善、危険廃棄物及び汚染された土壌の処理に取り組み始めた。2015年1月1日には中国史上最も厳しい新「中国環境保護法」(以下「環保法」)が施行され、違法企業と責任者両方に罰金を科すことや、罰金上限の撤廃、経営停止命令、違法企業の生産設備・施設の使用差止めや没収を含む強力な措置を盛り込んだ。

 一方、深圳市は環境保護においてかねて全国に先駆けて取り組んでいる。1994年には特区立法権を使用していち早く環境保護条例を定めた。しかし、従来の地方規定では企業の責任が不明確なことや、当局の権限が乏しく管理措置に実効性が伴わなかった。光汚染など様々な新しい環境問題への対応を迫られたこともあり、2016年8月4日に深圳市政府は「環保法」の方針に沿った「草案」を発表し、具体的な行動計画を明らかにした。

 

⒉環境保護条例における主要施策

 今回の「草案」の大きな特徴は、政府の監督責任・企業の環境保護責任の明確化、違反企業(法人および個人)に対する罰則の強化、重点分野に対する取り締まりの強化が挙げられる。

 深圳市に重工業はほとんどないため、発電所が排出する工業揮発性有機化合物(VOC)、自動車やボイラーの排気、煤煙などが主な大気汚染物質の排出源である。2003年より全市で発電所脱硫化、石炭ボイラーや焼却炉等煤煙発生施設への規制強化により、近年深圳市の大気汚染は軽減されつつある。今後、深圳市政府は、環境汚染の重点管理分野として自動車や遠洋船舶の排気、特にディーゼルトラックの取り締まりを強化すると見られる。

⑴監督管理体制の整備
・建設プロジェクトに対する分類管理:環境への影響が大きいプロジェクトや環境に敏感な建設プロジェクトに対して事前審査を実施。その他のプロジェクトに対しては備案管理を実施。
・監査方式の変更:従来、全企業に対する監査を行っていたが、今後は汚染源監査リストを作成し、リスト先企業への抜打ち監査の実施に変更。
・企業環境評価の強化:企業に対し定期的に環境保護における信用評価を実施。ブラックリスト企業は電気料金・汚水処理料金に懲罰価格が適用されるほか、銀行ローンの新規借入が禁止される可能性もある。
・企業による管理責任の厳格化:企業による自主点検、申告、情報公開についての責任を厳格化される。違反企業に対しては、行政処分決定前の主要メディアを通じた謝罪・改善策公表などで罰則を軽減。
・一般市民による監視の強化:情報公開と社会の監視を義務付け。違反行為に対する市民からの通報権、一定の条件を満たす社会組織による公益訴訟権を認める。

⑵違反企業に対する罰則の強化
・罰金の強化:違反企業は違反を指摘された日の翌日から是正された日まで日割りで罰金が計算される。罰金対象の違法行為に騒音が組み入れられる。
・「双罰制度」の導入:下記のいずれかに該当した場合、違反企業(法人)だけでなく、主要責任者(個人)も刑事罰(最高二十万元の罰金)の対象に。
▽汚染物排出許可証が取消される場合
▽生産、経営に対して指名停止される場合 
▽重大な環境汚染事件を引き起した場合
・違法企業に対する取り締まりの強化:基準を超えた汚染物質排出を行った企業に対する生産制限・停止及び業務停止・閉鎖等の罰則を明文化。

⑶重点分野における管理措置(図表参照)

 

図表:重点分野における管理措置(抜粋)

⒊まとめ

 環境対策は、日系企業の中国事業を左右するファクターの一つとして重要度を増している。深圳に進出している日本企業は、今後環境保護にさらに取組んでいく必要があり、コスト増は避けられない。一方、先進的な深圳市の取り組みに他の都市が追随することも考えられる。

 日本企業は1970年代の二度にわたるオイルショックや様々な公害問題に対処する中で、いち早く省エネや環境技術の開発に着手し、世界市場での優位性を確立してきた。最近では、大気汚染対策としてハイブリット車や電気自動車の開発等、クリーンエネルギーを活用したエコカーの開発に力を入れるなど、環境対策に対して様々な取り組みが行われている。今後、中国の規制強化をビジネスチャンスに変える日系企業の展開に期待したい。
(執筆担当:何 佩潔)

(このシリーズは月1回掲載します)

三菱東京UFJ銀行香港支店
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