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最新号の内容 -20160916 No:1463
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香港経済—今月のポイント

①中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、景気回復がまばらであることを示した。
②中国銀行業監督管理委員会は、資産運用商品の一種である「理財商品」の監督を強化する計画である。
③新制度は中小型銀行株の重しになる恐れがある。
④ハンセン指数は250日移動平均性がサポートになるとみられる。

 

香港の株式市場、
 「深港通」で流動性拡大へ

深圳証券取引所

香港株式市場、8月初旬は調整出現

 7月の香港株式市場は大幅に上昇し、ハンセン指数は約2万800ポイントから2万2200ポイントまで上昇。250日移動平均線を突破した。上昇を支えた要因は、⑴欧州や日本などの中央銀行が金融緩和政策を維持するとの期待が広がったこと、⑵中国のGDPや小売売上高、インフレ統計などを受け、中国人民銀行による金利や預金準備率の引き下げ余地が拡大したこと、⑶深圳と香港の相互株式取引制度「深港通」の解禁が近く発表されるとの観測が広がったこと——が挙げられる。もっとも、8月に入ると、ハンセン指数は買われ過ぎの反動から、2万2000ポイントまで下落。8月上旬は調整が続くと予想される。
 

中国の製造業PMIは景気回復がまばらであることを示唆

 政府発表の7月の製造業PMIは49・9に低下。予想を下回り、5カ月ぶりの低い水準だった。一方、民間の財新が発表した製造業PMIは50・6に上昇し、1年ぶりの高い水準。中小企業の回復が比較的速い一方、従来型の重工業はなお弱い状態で、景気回復がまばらである。
 

中国銀行業監督管理委員会が「理財商品」の監督厳格化を計画

 7月27日、中国本土メディアは、中国銀行業監督管理委員会が商業銀行の監督を強化するため、資産運用商品の一種である「理財商品」に対するリスク準備金制度の確立を商業銀行に求める案を策定していると報道。予想利回り型の商品に対しては、その管理費の50%をリスク準備金とするなどの案を定めているという。この報道を受け、A株は大幅に下落し、上海総合指数は3000を割り込んだ。しかし、その後は落ち着きを取り戻し、香港株式市場への影響もさほど大きなものにならなかった。
 

新制度は中小型銀行に圧力となる可能性

 HSBCは、リスク準備金制度により銀行セクターの純利益が2%押し下げられると試算。仮に、措置が実施されれば、「理財商品」の収入への依存度が相対的に大きい中小銀行への影響が大きく、とりわけ、理財商品の満期到来時の際には流動性リスクが高まる可能性がある。もっとも、長期的にみれば、「理財商品」の透明度を高め、オフバランス商品のリスクを低減することができる。中国本土、香港の株式市場にとっては、中小銀行株へのマイナス影響が相対的に大きい一方、大型銀行株が受ける影響は限定的とみられる。また、長期的には、監督強化は投資家の「理財商品」に対する懸念に対応するもので、銀行株の過度に低いバリュエーションの修正につながる可能性がある。


「深港通」の解禁発表、年末までに実施の見通し

 中国当局は8月17日、深圳と香港の相互株式取引制度である「深港通」を解禁すると発表。準備に4カ月前後を要するとしているため、今年末までには実施される見通しである。
 

A株の約880銘柄が深圳株投資の対象に

 香港から深圳向けの投資対象は、時価総額が60億元以上の深証成分指数、中小創新成分指数及びH株と重複上場している深圳上場のA株で、約880銘柄。深圳株式市場の時価総額の80〜90%、売買代金の約7割をそれぞれ占める。
 

「深港通」で約100銘柄の香港株が新たに取引可能に

 深圳から香港向けの投資対象は、ハンセン総合大型株と中型株指数の構成銘柄、時価総額50億香港ドル以上のハンセン総合小型株指数の構成銘柄、A株と重複上場しているH株で、計417銘柄。香港株式市場の時価総額の9割以上を占め、既存の上海と香港の相互取引制度「滬港通」の上海から香港向け投資対象に比べて約100銘柄増えた。
 

全体の取引上限額は撤廃も1日当たりの上限額は維持

 「深港通」では、全体の取引上限枠を設けない。同時に、「滬港通」の全体の取引上限も撤廃。ただし、1日当たりの上限枠は維持し、香港から深圳向け投資の1日当たり投資上限枠は「滬港通」と同じ1日当たり130億元。深圳から香港向け投資の1日当たり上限枠も、「滬港通」と同じ105億元となる。
 

個人投資家の残高50万元との参加要件の緩和は見送り

 中国本土投資家に対する香港向け投資の取引参加要件については、引き続き機関投資家及び口座残高が50万元以上の個人投資家とされ、市場で予想されていた参加要件の緩和は見送られた。一方、香港から深圳向け投資は、ベンチャー市場である「創業板」の銘柄(約200銘柄)については機関投資家のみの取引が認められ、その他メインボードである「主板」および中小企業向け「中小企業板」の約680銘柄については、投資家の参加要件は設けられていない。
 

セクターが多様な深圳市場、「滬港通」に比べて人気化の可能性も

 「深港通」の解禁は、中国本土の資本市場の開放、市場の流動性拡大に資するとともに、A株のMSCI新興市場指数への組み入れの可能性を高めるもので、長期的にみると、A株にとってプラス材料である。また、深圳の株式市場は、香港や上海の株式市場に比べて上場している銘柄のセクターが多様である。中でも、科学技術や消費、工業の割合が比較的大きく、ニューエコノミーや高成長に属するセクターが多い。一方、上海の株式市場は金融や不動産の比率が高く、香港の株式市場に似ている。深圳の株式市場はバリュエーションが相対的に高いとはいえ、業績の成長余地が大きいうえ、業種も独自性がある。「深港通」は、香港との株式市場の相互補完関係を構築できるとみられ、「滬港通」よりも海外投資家の選好が高まる可能性がある。
 

中小型株の選好度が高い中国本土の投資家、香港上場の小型の中国系銘柄が恩恵受ける見込み

 「深港通」解禁後、香港株式市場の売買代金が急激に押し上げられるとは考えにくいが、長期的にはA株の開放政策により、香港の流動性は高まるとみられる。
 8月16日の株価に基づくと、上海の株式市場の1銘柄当たりの流通株の時価総額は深圳の株式市場に比べて1・4倍高い。しかし、深圳の株式市場の売買代金は上海に比べて約3割上回る水準にある。このことは、中国本土の投資家が中小型株を好む傾向が強いことを示している。「深港通」の香港向け投資で新たに投資対象になった時価総額50億香港ドル以上のハンセン総合小型株指数の構成銘柄には本土資金の流入が期待される。なお、「深港通」で恩恵を受けると予想されるのは、⑴新たに投資対象になった小型の中国系銘柄、⑵A株とH株の価格差が大きい銘柄、⑶国際業務を手掛ける多国籍企業——である。

(恒生銀行「香港股市展望」8月3日号、「滬港通/深港通専題」8月17日号より。このシリーズは月1回掲載します)