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最新号の内容 -20160819 No:1461
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《64》

 月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国等を中心とした税金等に関する問題についてご紹介させていただきます。平成27年度税制改正により国外転出時課税制度が創設され、平成27年7月1日以後に国外転出をする一定の居住者が1億円以上の対象資産を所有している場合には、その対象資産の含み益に所得税および復興特別所得税が課税されることとなったことは以前に解説いたしました。最近の税制改正は富裕層への課税強化へと舵を取っている傾向が見受けられますが、今回は、富裕層の財産を把握したい税務当局の思惑が見え隠れする財産債務調書制度および国外財産調書制度について解説いたします。

 

財産債務調書制度・国外財産調書制度

 

財産債務調書の提出制度の概要

 財産債務調書制度は、平成27年度税制改正において、所得税・相続税の申告の適正性を確保する観点から、一定の基準を満たす方に対して、その保有する財産及び債務に係る調書の提出を求めるために創設された制度です。

 財産債務調書制度では、確定申告書を提出しなければならない方が、その年の総所得金額が2千万円を超え、かつ、その年の1231日において価額の合計額が3億円以上の財産または価額の合計額が1億円以上である国外転出特例対象財産(有価証券等)を有する場合に、財産の種類、数量、価額並びに債務の金額などを記載した「財産債務調書」を、翌年の3月15日までに所得税の納税地の所轄税務署長に提出しなくてはなりません。 

 「財産債務調書」では、財産の種類、数量、価額、財産の住所、有価証券等の銘柄及び時価などを記載する必要があります。かなり詳細な内容の記載が求められ、特に有価証券等に関しては、上場企業株式なら市場価格が時価になりますが、未上場株式などは毎年、株価を算定する必要があるため、かなり手間がかかる作業となります。企業のオーナーの場合は比較的容易に、保有している自社の株式価値が3億円以上となることがありますので、留意が必要となります。


国外財産調書の提出制度の概要

 国外財産調書の提出制度は、近年、国外財産の保有が増加傾向にある中で、国外財産を保有する方からその保有する国外財産について申告してもらう仕組みとして、平成24年度の税制改正により導入された制度で、平成26年1月から施行されています。具体的には、その年の1231日においてその価額の合計額が5千万円を超える国外財産を保有する居住者の方(非永住者の方を除く)は、翌年の3月15日までに当該国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を、所轄税務署長に提出しなければならないこととされています。

 制度導入の背景には、国外財産に係る所得税や相続税の申告漏れの著しい増加があります。政府税制調査会の資料によれば、所得税調査で国外財産に係る申告漏れがあったもの1件当たり申告漏れ額は平成21年度で3390万円、同じく相続税調査では1億661万円と3年前に比べてそれぞれ1・8倍 2・3倍に増加していたとのことです。中には、外国株式の配当所得10億円を所得から除外していたケースや国外預金30億円を相続財産から除外していたといった極端なケースもあったようです。

 両制度を比較すると表の通りとなります。両者はいずれも個人の所有する財産を所轄税務署長に申告する制度ではありますが、提出義務者、記載対象、罰則の有無等が異なるため、その違いをきちんと理解することが重要です。 国外財産調書の不提出・虚偽記載については、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金という罰則規定が設けられています。条文には「ただし、情状によりその刑を免除できる」という宥恕規定が入っていますので、うっかり忘れたといったケースまでいきなり懲役刑になることはないと思いますが、条文上は十分にあり得る話のため注意が必要です。

 世界各国の税務当局も国境を越えた税逃れの把握には頭を悩ませています。日本においても、財産債務調書制度、国外財産調書制度や租税条約に基づく情報交換の実施などを導入し、徐々に本腰を入れてきている感があります。
 

財産債務調書・国外財産調書制度の比較

(このシリーズは月1回掲載します)


筆者紹介

フェアコンサルティング(香港)

 東京、大阪、香港、上海、蘇州、台湾、ベトナム、フィリピン、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、メキシコを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェア コンサルティンググループの香港拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士スタッフが、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務・財務戦略を企画・立案・実施支援しています。
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