ベトナムビジネス・会計税務入門⑦
前回に引き続き、ベトナムに会社や駐在員事務所を設立し、外国人が赴任するにあたり必要な手続、また人材を採用するにあたって注意しなければならない点等、労務管理についてみていきましょう。 (NACベトナム事務所)
1 就業規則の作成 10人以上の被雇用者を使用する雇用者は、書面による就業規則の作成が義務付けられています。 その内容には、以下の項目を記載する必要があります。
①勤務時間、休憩時間 これ以外にも、会社の都合に合わせて、法律にかなった内容で項目を追加することができます。 就業規則はベトナム語で作成しなければなりませんが、参考として日本語などの外国語でも作成することが可能です。 就業規則は、作成後に管轄する地域の労働局に登録することによってその効力が有効となります。登録しない場合、その効力が不十分となり、実際に社員を処罰する際に会社側が法的に不利となる可能性もあります。 労働法125条では、違反行為を行った従業員への対処について、違反内容に応じて、①戒告(口頭または書面)、②最長6ヶ月以内の昇給停止または賃金の低い職務への異動、③解雇、の措置をとることができると規定しています。②と③の処分手続をする場合、会社側は、対象となる従業員が違反行為を行ったことを立証し、手続を文書で記録する必要があります。また③解雇の場合には、管轄の労働局に届け出なければなりません。現実として、解雇の手続は煩雑であるため、会社側と当該従業員が話し合い、労働契約の終了の形をとって退職とするケースが多いようです。
2 給与 ベトナムでは、労働者の賃金を保証するため、政府によって地域別に最低賃金が定められています。インフレの影響もあり、最低賃金は毎年少しずつ上昇しています。なお、職業訓練を受けた労働者に対してはこの最低賃金より少なくとも7%上乗せした給与を設定しなければなりません。 賞与の支給は、法律に基づくものではなく、会社の業績や労働者の成果に応じて支給されています。給与の1ヶ月分を、西暦の1月から2月の旧正月前に支給するケースが多いようです。 また昇給は、賞与と同様に会社の業績や労働者の成果を鑑み、1年に一度考課するのが一般的です。近年は物価の上昇の影響もあり、昇給が無い場合、退職をしたり、従業員がストライキを起こしたりするケースが増えています。優秀な従業員の流出やストライキの防止策の一環として、多くの会社はわずかでも昇給をさせて従業員の勤務意欲を高めるよう工夫しなければなりません。
3 強制保険 企業が被雇用者のために加入する強制保険は、社会保険、健康保険、失業保険の3種類です。3ヶ月以上の雇用契約を締結した被雇用者は強制保険に加入しなければなりません。2015年現在の保険料率は、基本給をベースに以下の負担割合となっています。
①社会保険:雇用者18%、被雇用者8% なお、高額所得の被雇用者に対する保険負担増を考慮し、保険料の算定に上限が定められています。最低賃金(ここでの最低賃金はベトナム企業の最も低い地域の賃金)の20倍をベースに保険料率を掛けて算出します。
4 労働時間 労働法において、労働時間は、最長1日8時間、1週間48時間と規定されています。会社はこの範囲内で勤務時間を設定することができます。また休日は1週間に最低1日とらなければなりません。ベトナムでは、国営企業のほとんどは完全週休2日制ではなく土曜日午前中のみ勤務としています。外資企業では、製造業の場合、土曜日終日を勤務日としている企業も多くあります。 残業は最長1日4時間、年間200時間以下でなければなりません。残業を行った場合、以下のように通常の給与をベースに割り増しの残業手当を支給します。
①通常の勤務日:150% さらに深夜残業(午後10時から翌日午前6時)の場合は、上記に加え30%+20%を割り増しして支払わなければなりません。
5 有給休暇 労働者は、年間12日の有給休暇をとることができます。また勤続年数が5年毎に1日追加されます。なお、勤務期間が1年未満の場合は、月に1日の割合で有給休暇が与えられます。 また、未消化の有給休暇については次年度に繰り越すか、現金で清算することができます。 労働法では慶弔休暇の日数について以下のとおり規定しています。
①本人の結婚:3日
6 産休等、女性の権利 ベトナムでは多くの女性が働いており、その権利は労働法で保護されています。会社は、結婚、妊娠、育児を理由に当該従業員を解雇および労働契約を一方的に終了させることはできません。 出産休暇は、労働法上、出産前後に6ヶ月取ることが認められています。出産前の休暇期間は2ヶ月を超えることができません。産後から4ヶ月経過後であれば、産休期間終了前であっても早期に職場へ復帰することも可能です。産休期間中の保障は社会保険基金より支給され、産休直前の6ヶ月平均給与をベースに手当として受取ることができます。なお、早めに職場復帰する場合で、まだ出産手当を受取れる権利がある場合は、給与に加え残りの出産手当を受けることができます。 生後12ヶ月の子供がいる従業員は、減給することなく、1日に60分勤務時間を減らすことができます。また、残業、夜間勤務および遠隔地での勤務が禁止されています。 (このシリーズは月1回掲載します)
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