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最新号の内容 -20150619 No:1433
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 ひと口に「仕事人」と言ってもその肩書や業務内容はさまざま。そして香港にはこの土地や文化ならではの仕事がたくさんある。そんな専門分野で活躍する人 たちはどのように仕事をしているのだろう? 各業界で活躍するプロフェッショナルたちに話を聞く。
(取材・武田信晃/月1回掲載)

  

第22回  中華スリッパ職人
 
スリッパを進化させる3代目

 

  いろいろな種類と色がある。本店は佐敦の宝霊商場内(www.sindart1958.com)


  日本では伝統産業の職人が減少しているように香港でも同様に伝統ある産業が衰退しつつある現状がある。色鮮やかな中華スリッパもその中の1つだが、職人の王嘉琳(ミル・ウォン)さんは間違いなくスリッパ産業に明るい光をもたらしている。  

 

単なる看板娘ではなく3代目のミルさん

 1958年創業の「先達商店(Sindart)」は、中華風のスリッパを中心に販 売する歴史のある店で、24歳のミルさんはその3代目だ。「祖父が創業したのですが、家族が店で働いていましたから店で過ごすことが多かったですね。成長 してお店のポップアップなどを手伝うようになりましたけど、店を継ぐという考えはなかったです」。家業を継ぐことを考えたのは、16歳の時に将来の進路を 決めるときだ。それまでにも学校にお店のスリッパを持っていき友人に見せて評判が良かったり、友人のアドバイスもあり、家業を継ぐことを決めた。「幸い大 学にまで進学できましたけど、学生をしながらスリッパのデザインやブランドイメージを高めるにはどうしたらいいのかというのを考えてきました。今は、父親 から経営も引き継ぎましたから、やりがいはあります」  

 スリッパをみればわかるが、すべて手作り。ビーズやスパンコールなどを使ったオ リジナルデザインだ。同じ色、サイズでも2足以上作ることは少ないのでほとんどのスリッパが世界で1つだけとなる。「食事中にデザインを思いついて、メモ することもありますよ」。ファッションに関するものがすべてそろう深水埗に出向いて素材を探し、ダミーを作ってそれが商品化できるかどうかテストする。も ちろん通常の縫製もあるので1つのスリッパを作るだけでも想像以上に時間がかかる。「どうやっても最短で1週間はかかりますね」。それでも販売価格は 200ドルあればほとんどの商品が購入できる…あれだけ手間ひまかけているにもかかわらずだ。多くのお客はそれがどれだけお得なのかをわかっているが、 「スリッパなのに高い。もっとディスカウントして」と香港人メンタリティーといえばそれまでだが、職人の技を評価せず心ないことを言う客もいるという。  

 客のほとんどが香港人で常連客も多いが外国人だと日本人が最多だそう。「最近は スリッパのよさを知ってもらうためワークショップも始めました。おかげさまで盛況です。将来はブランディングの一環として、ファッションのようにスリッパ のコレクションを発表するのが目標ですね」と「スリッパを進化させる」アイデアはどんどん沸いてくる。  

 無類の日本好きで、筆者のミルさんの第一印象は香港人には珍しくしっかりとメー クをしているだけでなく、日本風のメークをしていたことだ。「セーラームーンも見ていましたよ」と笑う彼女は「着物にも関心があります」と話していた。こ のように伝統文化を大事にし、広めていくという姿勢なら、少なくとも中華スリッパにおいては今後数十年は安泰だろう。  

 

パンダの刺繍をしているところ あまりの人気ぶりに最後の1足だそう