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最新号の内容 -20141121 No:1419
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中華文化の発信拠点
饒宗頤文化館

 

高層マンションが無数に林立する美孚地区。ここに中華文化の発信基地であり、かつ中華文化を学ぶことのできる「饒宗頤文化館(Jao Tsung-I Academy)」が今年6月グランドオープンした。英国文化が残る香港ではあるが、民族的根っこは中国。その文化を伝えていこうとするのがこの施設だ。歴史と香港情勢に翻弄された文化館の歴史を併せて紹介する。(取材と文・武田信晃/構成・編集部)

 

下区の改修前(写真提供・饒宗頤文化館)

下区の改修後はちょっとした人造池などを設置 

再開発された3級歴史建築

★施設用途が8回も変更

 この施設は清朝時代の1887年に税関として開設されて以来8回も使用用途が変更されたというほかではあまり見られない歴史を持つ。今の街並みからは想像がつきにくいが長沙湾、/ُ枝角は大規模な埋め立てが行われたところであり、ここに税関を建設したことはなんら不思議ではない。

改修前の様子(写真提供・饒宗頤文化館)

改修後はすっきりした印象

 1899年、英国は南アフリカとの戦争に勝ち鉱山を開発することにした。彼らは人材が豊富な中国人を利用することを計画。1904年から06年の間に河北、山東省など人々約6万人を南アフリカにほぼ奴隷同然のようにして送った。そのうち1741人の中国人が出航前の宿舎として使用した。
 

 

同施設の歴史が時系列でわかる

 数年の「空き家状態」の後、1910年から検疫所と病院、および職員宿舎として使われた。本紙1401号で紹介した美荷楼の公営住宅とは違い、台所やトイレがしっかりと備え付けられていた。

 1920年代に入ると中環にあるビクトリア監獄は受刑者でいっぱいとなったことから男性専用の監獄として使用され始めることに。1931年になると女性向けの監獄も増築された。小さな病院施設も設けられ、中には妊娠中の受刑者もいたという。
 

 

レンガが元々の資材。色や灰色の部分が改修でペイントされたところ

天井と柱のコンディションチェックは気の遠くなるような作業だった 

 5回目の使用用途は伝染病専用の病院だ。コレラ、天然痘に感染した患者がここで隔離治療を受けた。1948年からは業務が拡大され/ُ枝角病院として再出発している。1960年代の香港では取水制限が行われており、水道の水が出るのは4日に1回、1回4時間という非常に厳しい衛生環境での運営だった。もちろんこの水環境は香港全体の伝染病感染の状況を悪くしたと書かれている。また、1947年から76年にかけて働いた看護婦によると病院開設当初は1つの病棟に30数人が入院し、看護婦は1人、病棟で1日働く専任アシスタント1人、半日働くアシスタントの1人だったという過酷な労働環境だったと回顧している。
 

 
色あせたが病院だったことがわかる看板 
 
建物と建物間にはこのような休憩所も  お土産店もある 


 感染病が減っていた1975年からは治療内容を変更し長期入院患者向けの病院に用途変更され、その後、精神病患者向け役割も加わった。そのため一般人が病院に入る機会も少なく、中に入ることも制限されていたことから、当時の美孚の住民はここが何の施設なのかはっきりとは知らなかったそうだ。

 そして2000年から2004年は茘康居という名前で慢性疾患を抱える人のケア施設として利用されていた。

 

宿泊施設やレストランも

★アカデミーとして

饒宗頤氏の銅像。1917年生まれで今でも精力的に活動中

 ケア施設閉鎖後、2008年に香港特区政府は歴史的建造物の保存、有効利用についての計画を策定。同施設もその1つに選ばれた。

 2009年、歴史学、芸術史学、古典文学など中国文化の権威である饒宗頤氏が名誉会長を務める香港中華文化促進中心がこの施設の再開発を担うことになった。施設は「文化伝承」など4つのテーマを持つ。ここで中華文化の歴史を知ってもらい、かつ多種多様なカルチャー教室などを開催して知識を深め、関心を持ってもらおうとするのが狙いだ。同文化館の連永 総経理は「特に小学生に力を入れたい」と語った。
 

歴史を感じさせる外観

芸術館の内部 

 面積は3万2000平方メートル、総工費は約2億7000万ドルで2010年から大規模な改修が開始され2014年2月に部分開業し、現在はすべて開業している。「古い建造物のため工事は慎重に行った。建物のレンガ、瓦などは1つひとつ確認し、破損があればすべて交換した」(連総経理談)
 

 

舞台劇なども開かれる 

 施設は上区、中区、下区に分かれている。上区は後述するホテルエリアだ。中区はコンサートなどができるシアター、レストラン、会議やアクティビティー向けの部屋、展示室、芸術工房などで構成される。下区は芸術館と同施設の変遷がわかる保育館がある。例えば、芸術館は饒氏の絵画、習字などを展示し、これぞ中華芸術というのを見せてくれる。この施設自体が香港の歴史そのものともいえるので、保育館にいけば時系列で香港の歴史を学ぶことも可能だ。中区ではお茶や木造建築の勉強会が開催されるほか、「コーヒー・生活・禅」と題してお坊さんが講演を行うなどユニークなプログラムも組まれたりしている。

 

★緑に囲まれたホテル

 施設は丘の坂に沿って造られており、最上部の上区には「翠雅山房(Heritage Lodge)」という宿泊施設が併設されている。築100年は経過した建物を大改修し全89室(うちスイートは5室)のホテルに生まれ変わった。内装は中華テイストでリラックスできる部屋を提供しつつ、もちろん設備は最新のものをそろえた。ホテル周辺は緑に囲まれているので大都会香港の喧騒からもエスケープできる。
 

昔のホテルの様子(写真提供・饒宗頤文化館)

このようにホテルが生まれ変わった 

 スタンダードルームはツインとダブルがあり建物本来の大きな窓を生かして明るい部屋だ。大きさは20〜24平方メートルでインターネット、32インチのテレビなどを完備。「フィーチャールーム」は大きさや設備はスタンダードとは大差がないが、大英建築と中華建築をうまくミックスした部屋で、天井が高いためより開放的な空間となっている。「ワン・ベッドルーム・スイート」はリビングとヘッドルームの2部屋でインターネットもワイヤレス。いす、ヘッドなどの調度品はこれぞ“コンテンポラリー・チャイニーズ”という印象だ。
 

スタンダードダブルルーム

スイートのリビング。中華家具が目を引く

 気になる料金はシーズンによって大きく変動するが、スタンダードルームは1泊600から1200ドルの間で、スイートになると1200ドルからだ。全館共通サービスはランドリー、モーニングコール、24時間常駐のコンシェルジュ、Wi-Fi、高級ホテルに近いサービスを提供している。また、ホテル、同アカデミー、美孚駅AとC出口を結ぶ無料シャトルバスも運行している。

 

★有名なレストランが入居

 

日差しがよく入るので遮光カーテンをひくことも

 香港で4店舗を構える「銀杏館(Ginko House)」というレストランがここに入っている。もちろん古い建物を生かしレトロ風の雰囲気。また、窓もたくさんあり自然の光が入ってくるほか、取材当日は小さな子どもの誕生会が開かれていたこともあり、店内の雰囲気は明るい。元々はお年寄りを対象としたビジネスをやっており、その中で食事の提供業務をしていた。事業拡大で2006年に中環にイタリア・フランスなど欧州料理の店としてオープン。2009年に太子に中華料理の店を開設。支店ごとに食べられる料理が違うというのが特徴で、今回は西洋料理と中華が両方食べられるレストランだ

トマトとパイナップルでさっぱりさせることができる秘制東坡肉

胡麻茄子はお酒と相性がいい

 「胡麻茄子(65ドル)」は茄子を揚げた料理で外側のカラッとした食感。ピリ辛の味が箸を進ませる。「秘制東坡肉(88ドル)」は豚肉をワインなど使って10時間ぐつぐつと煮込んだ手のかかった一品。長時間煮込んだだけあり、肉・脂身すべてがとろけるようなほど柔らかい。「皇牌焼牛骨(168ドル)」は同店の鉄板メニュー。ワイン、20種類のハーブと一緒にオーブンで焼き上げる。食べた瞬間にワインの風味が口の中に広がる。
 

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★饒宗頤文化館(Jao Tsung-I Academy)
所在地:800 Castle Peak Road, Kowloon, Hong Kong
電話:2100-2828
開館時間:8:00〜22:00(下区の芸術館と保育館は月曜休館)
入場無料
文化館ウェブサイト:www.jtia.hk 
ホテルウェブサイト: www.heritagelodgehk.com

★銀杏館(Ginko House)
所在地:饒宗頤文化館内
電話:3480-0331
営業時間:7:30〜22:00
ウェブサイト:http://www.gingkohouse.hk/
www.meihohouse.hk