福岡と香港 ~地方の国際ビジネス最前線~
「地方創生」は日本政府が掲げる重要課題の1つだが、地方には香港と密接な関係を持ち国際ビジネスを活発に展開しているところも多い。今回は福岡県と香港の間で懸け橋となっている方々に話を伺った。
福岡県庁香港事務所所長 渡邉大輔さん
2008年以降は急激に観光客が増えています。SARSやリーマンショックなど厳しい時期もありましたが円安の影響で伸びています。ここ最近の特色として低料金で福岡に行けるようになったので多くの若者が行くようになりました。背景には福岡行きのLCCが就航したことにより、2泊3日など短い日数で何回も訪れる方が増えたことがあげられます。 ——福岡産魚介類の輸入も増えているそうですね。
特に牡蠣の販売量は目覚ましく昨年から徐々に増えています。福岡は中央卸売市場をもっているので魚介類が九州中から集まってきます。ちなみに福岡の魚市場の水揚げ高は全国有数で高級魚市場です。私は2年前から香港に来ていますが、魚の流通をみていると福岡はほかに比べて鮮度の高いものを香港に輸送できています。というのも朝3時に競られた魚は、その日の夕方には香港のレストランで提供可能だからです。これも福岡だからこそ成しえることです。鮮度が抜群に良いという点では他国・地域に負けません。 ——なぜ福岡の牡蠣が注目されているのでしょうか。
そもそも牡蠣養殖が始まったのは1970年代後半です。日本が高度経済成長を迎えた後、人件費が高騰し始め、牡蠣をむいて生産することが困難になっていきました。つまり儲からなくなったのです。そこに福岡の北九州空港ができることが決まり、海苔養殖が行われていたのですが、代替漁業として漁師が選んだのが牡蠣養殖でした。当初殻つきのまま売っていたらこれが当たって売り上げが伸びたんです。そのうち牡蠣小屋も生まれ福岡の牡蠣文化が出来上がっていきました。そんななか福岡市漁協唐泊支所が牡蠣養殖を始めるときに、福岡市が水質検査を厳しくしたんですね。月に2回、安全項目13もある検査をパスしなければいけない厳しいものでした。 ——魚介類以外にも福岡の食といえばラーメン。大人気ですね。
福岡県のFBアカウントでは、昨年オープンしたラーメン店「一蘭」の記事のシェア数が過去最高です。今、一蘭は「一蘭の森」というラーメンを主体としたアミューズメントパークを福岡に作り、ラーメン工場の製造過程を楽しみながら出来たてのラーメンを楽しめる施設を作りました。日本のラーメン好きの香港観光客から大人気の場所になっています。 ——しかも福岡行きのフライトもさらに増便しています。
昨年10月末からドラゴン航空は307人乗りの大型機が就航しました。これによってビジネスシートが倍以上に増えツアー内容も大きくも変わりました。たとえば富裕層向けの4泊5日、70万のグルメツアーは特に人気です。また観光列車内に宿泊しながら2泊3日の九州ぐるり旅、クルーズトレインも大好評です。一方で4月からは、LCCの香港エクスプレスが参入しました。174人乗りと小さ目ですが毎日運航している上格安なので学生さんや若い世代が多く利用しています。これを機にさらに若者にも気軽に福岡にいっておいしいものを食べて魅力を知ってもらいたいですね。 ——若い世代に和食の素晴らしさを知ってもらおうと、香港の大学で「和食セミナー」を開いているそうですね。
魚の流通と手巻き寿司、そして和食文化について知ってもらい、より福岡を身近に感じてもらおうと2010年から香港の大学を対象に始めています。このセミナーが大変好評で、翌11年から香港の大学生が夏休みを利用して福岡に3週間、社会研修に行くカリキュラムをつくりました。研修が修了したら修了書も県から発行される仕組みです。
フードエキスポで茶葉を紹介
西福製茶専務取締役 西宏史さん
——アジアフードエキスポの出店は今回が2回目だそうですね。
昨年初めての参加でリサーチ不足ということもありましたが、1年間かけて世界の展示会にでていたので準備万端な状況で香港に出展しました。実際に会場にいると日本食の人気が高いのをすごく実感しましたね。円安の追い風もあってでしょうがかなりのお客様が来場されていました。 ——どこの国のお客さんが多かったのですか。
地元の香港人が圧倒的に多かったですが、次に本土のお客様です。残念ながら本土は2011年の震災以降にお茶を輸出することができず、厳しい状況が続いていますが、必ず本土のお客様にもご提供できるようにしていきたいと思っています。日本茶の魅力はなんといっても新鮮さです。茶葉を摘み取ってからすぐに製茶することで新鮮さを維持することにつながります。これは中国茶、紅茶などの発酵茶にはない製法です。これによってお茶に含まれる栄養素がしっかりと残ってより体によい部分を飲むことができます。 ——特に八女茶が誇ることは?
歴史的な背景りして、日本で最初にお茶が伝わった場所は実は福岡なんですよ。鎌倉時代に福岡の栄西禅師というお坊さんが中国からの修行で持ち帰ってきた茶の種を福岡と佐賀の県境に植えたのが日本のお茶の始まりといわれています。八女はお茶の栽培に非常に適した環境です。寒暖の差が激しいこの場所は、旨み、甘味をもったお茶を自然に育むのに最適な土壌があります。しかも摘んだ茶葉をフレッシュな状態で仕上げるというのはものすごい技術が必要なんですよ。800年の間、日本茶のクオリティーと技術が上がり、八女はその中でも日本茶最高峰の玉露の生産量、日本一を誇ります。玉露の品評会でも12年連続日本一をとっています。茶葉を単に売るだけでなく、生産者の方が一年間手をかけて作った大切なお茶を届ける。嗜好品というだけではなく日本の文化として海外に伝えられたらと思います。
和食マナー講座を開催 寿司とく大将 本山太一朗さん
——香港の大学などで教えている「魚のセミナー」について教えてください。
福岡県主催で、渡邉さんと組んで、和食マナー講座や、寿司の歴史と日本文化について講義しています。なぜ日本人は「いただきます」から始まり、「ごちそうさま」で終わるのか。ここに大きく日本の心と頂く命への感謝の気持のが表れがあることなども伝えています。 ——なかなか奥深いセミナーですね。
こうしたセミナーは、一度に多くの人に日本の文化、食について伝えていくこと、福岡を知ってもらうことができます。学校で学んだことを家族や友人に伝えることで、その輪がさらに広がっていきます。こうした相合理解が深まることはとても大切ですし、そのために積極的に動こうという気持ちがより強くなっています。私は、漁師町出身で料理屋の息子なので、幼いころから福岡の玄界灘の魚は食べてきました。そのおいしさは誰よりも分かっています。だからこそ国際都市である、香港から世界に情報を発信できることは大変うれしく思っています。
——なぜ香港に? 先代がいたのですが、香港で店を立ち上げるときに声をかけられて一念発起、香港にきたのがきっかけです。全部捨てて裸一貫できました。香港にきて8年、店も今では多くの香港のお客さんも来てくださります。そんななか、こうした文化を理解し深めていくイベントも積極的にできるようになって改めて福岡の素晴らしさ、九州の魅力を感じてもらえたらいいですね。将来的に、さらに福岡と香港がさらに距離が縮まり、多くのお客さんが福岡に気軽に行けるようになるきっかけをどんどん作っていきたいですね。そしてより福岡が活性化していくサポートを担えたらこんなにうれしいことはありません。
福岡での研修を体験 香港城市大学専上学院卒業生 鄭泳さん
——いつ参加されたのですか。
昨年の夏休みです。私の大学では長いこと夏季研修は行われていますが、福岡は初めてでした。香港は福岡のラーメン屋「一蘭」があり大人気です。ですので、福岡≒食べ物のイメージでした。京都や奈良のような古都と、福岡がどう違うのか、行くまで楽しみでした。 ——実際に参加していかがでしたか。
3週間、盛り沢山のアクティビティでした。大好きな一蘭の本店にも行きましたし、牡蠣養殖場にも行きました。牡蠣は大変美味しかったです。なぜなら食べる30分前に海から挙がった新鮮なものを食べられたからです。しかも今まで見たことないくらい大きな牡蠣で驚きました。またお茶の講習も素晴らしく奥深い日本の文化に触れることができ感激しました。梨や巨峰狩りも初体験です。香港は土地がないので、果物が成っている様を見ることはまずありません。最高においしかったです。 ——プロジェクトに参加してから何か福岡の印象は変わりました?
かなり変わりました。地方都市なので東京や大阪の喧騒がなく大変落ち着きました。静かな街のなかで、伝統的のある山笠祭りを見た時には彼らの情熱を感じ取ることができ感動しました。この研修からから帰って余韻が残っているうちに、母を連れてまた福岡に行ったほどです(笑)。母も香港と違って落ち着くと何度も言って喜んでいましいた。 ——滞在中印象に残ったことは? とにかく人が優しいことです。道を尋ねると皆さんとても親切で目的地まで連れて行ってくれたんです。驚いたのは、目的地に連れて行くことができない人が私たちに詫びることでした。香港でまずみることがない光景に感動し、福岡の人々の優しさにも触れることができた貴重な機会でした。 |
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