香港を通じて日本の食を世界に売る これからの日本が発展していくためには、急速な成長を遂げる中国市場と東南アジア市場への積極的なアプローチが重要課題となる。香港貿易発展局(HKTDC)は東京と大阪に事務所を持ち、多くの日本企業の国際進出とビジネスチャンスの創出に取り組んできた豊富な実績と経験を持つ。海外にも通用する優れた潜在力を持つ企業と人々のために、国際商業貿易都市・香港のメリットとその実情を紹介する。(編集部)
香港は人口が約700万人で、マーケットとしては大きくないように思われるが、年間のべ4100万人の来訪者があり、食料自給率1%で世界中からの食品が集結、関税障壁はなく、非関税障壁も少ない上に、人々が1日に5回食事をするといわれる「食い倒れ」の街でもある。前回に引き続き、香港貿易発展局(HKTDC)大阪事務所の伊東正裕・所長に、香港向け食品輸出ビジネスについて話を伺ってみた。
東日本大震災の影響は?
香港ではかなり以前から日本食が浸透しており、街なかでも日本料理店をよく見かけるが、昨年の東日本大震災以後の影響はどんなものだったのだろうか?
「香港では、地震の直後に、店頭から日本食品が姿を消しました。その時に店に並んでいるものは安全だから、みんなが買い占めたんですね。5月のメーデーを境目にしてマスコミ報道も落ち着き、8月ごろからはすでに通常通りに近い状態に戻っていたと思います。香港は、日本の食品・農林水産物輸出仕向地としては、7年連続トップの座を保ち続けており、2011年度は全輸出金額の約4分の1を占める1100億円が香港向けに輸出されました(1人当たり年間日本食品購入金額は約15800円)。地震の影響で輸出量は減少しましたが、それでも前年度比でマイナス8・1%にとどまりました。実は香港での日本食に関係する就労人口は10万人を越えるといわれており、日本の食品が危ないという話が続くと雇用不安・社会不安につながるんですね。それで、香港側で日本からの輸入食品を抜き打ち検査するなどして、行政長官が安全宣言を出しました。農業国や通常の国ならば、他国の食品の検査や安全宣言を積極的に行うことはほぼありえないと思いますが、香港は輸入に頼らざるを得ない状況もありましたから…」
3・11以後、香港での地震報道には大変なものがあったが、香港特有の事情から日本食品の風評被害が抑えられていたのが実情のようだ。
国際的な「酒類流通ハブ」となった香港
香港では2008年に、それまで80%だった酒税が完全撤廃(葡萄酒とアルコール度数30%以下の酒類)され、2011年にはワインオークションの成約金額で、ニューヨークを抜いて世界第1位となった。国際的な「酒類流通ハブ」となった香港において、いま日本酒が注目されている。
「酒税低減措置が発効してから、香港の高級スーパーなどで日本酒が売れるようになりました。主に、香港の若者や、中国の方が買って持って帰られるということですが、香港では日本食レストランが1300軒以上もあり、日本食が浸透しているのに、いままでは酒税が高かったため、日本酒はあまり広まっていなかったのですね。酒税撤廃で価格が安くなったのをきっかけに、今までは日本酒は熱燗で飲むというイメージしかなかったのが、冷酒のような飲み方もあることが知られるようになり、日本食レストランでもよく注文されるようになったと聞いています」
国際的な酒類流通ハブとなった香港で認められるのならば、日本の酒やワインが香港を通じて、中国をはじめ、世界で認められるようになる可能性は十分に考えられるようだ。
世界の華僑のトレンドを作る香港
香港に日本食品の確実な需要があり、今後も発展性があるのは間違いないようだが、香港から「世界」へ…というのはどういう仕組みがあるのだろうか?
「実は、香港の名物でもある高級店のチャーシューは、『てかり』を日本の味醂で出しているといわれており、これが今、世界中の中華レストランにも広まっています。これはメーカー主導で売り込んだわけではなく、香港のシェフが独自に開発した方法なんですね。また、日本の豚骨ラーメンのスープの素を、小籠包(ショーロンポー)のあんに加えていたり…。そうすると肉汁がとてもジューシーでおいしくなるんです。香港には、才能豊かでアイデアのセンスを持ったシェフが多いですから、われわれが本来考えている用途とは別のうまい利用法を独自に工夫・開発してくれます。それが華僑のネットワークを通じて世界に広まって行く。香港にはそんな効能もあるのですね」
現在、香港が輸入している食品の約3割は、世界に向けて再輸出されており、そのうちの6割が中国本土向けだといわれている。日本の食品にとって香港は、世界と中国富裕層に向けての重要な足がかりの一つと言えるのではないだろうか。
(このシリーズは月1回掲載します)
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