香港の伝統行事 盂蘭節を知る8月といえば日本はお盆の季節。ここ香港でも旧暦7月15日に「盂蘭節(ユーランチェツ)」というお盆がやって来る。そして旧暦の7月は「鬼節」や「鬼月)と呼ばれ、「鬼(霊)」たちがあの世から解放されてこの世をさまよう月とされている。この時期になると街では紙銭を燃やし、供え物をする人の姿を見掛けるようになる。香港で今も受け継がれる盂蘭節の風習を紹介する。(構成・編集部) 風習の由来とは?
鬼節の風習は主に香港では仏教の「盂蘭節」として、台湾では道教の「中元節」(旧暦の7月15日、今年は8月14日)として残っている。盂蘭節と中元節は本来別のものであり、厳密には分けて語られるべきだが、両者はともに「旧暦の7月に戻ってくる霊を慰める」という概念や、その根底に「普度衆生(人々を苦しみから分け隔てなく救う)」という教えがある。このため長い歴史の中で民間信仰として受け継がれていく間にそのしきたりや言い伝えが混ざり、現在では混同されて語られることも多い。
目蓮と母の物語盂蘭節の起源は仏教の『目蓮救母』の物語とされる。265~290年の中国の古文書『仏説盂蘭盆経』の記載によると、「目蓮の母親は生きているときから業が深く、慈悲の心がなかった。このため死んでから地獄に落ち餓鬼となって苦しまねばならなかった。目蓮はそんな母親を見兼ねてごちそうを用意するが、母親が口に入れようとすると食べ物は炭と化してしまう。これを悲しんだ目蓮を見て仏様は目蓮に、7月15日に料理や果物を盆に盛り仏を供養し、僧りょの功徳をたたえ、人々を苦しみから解放するために祈れば母は救われると説く。目蓮は仏様の教えに従い、母親を救う」というもの。
「盂蘭」はサンスクリット語で「倒懸(さかさりの苦しみ)」という意味であり、地獄の苦しみから霊を救う意味でもある。また目蓮の物語は親孝行の象徴的な話として民間に語り継がれたことから、盂蘭節は先祖を尊ぶ日ともされている。 地獄の門が開く日 旧暦の7月1日(今年は7月31日)は地獄の門が開き、鬼たちがこの世に現れる日で、同7月30日(今年は旧暦7月29日に当たる8月28日)は鬼たちが帰り地獄の門が閉まる日といわれる。盂蘭節には先祖の霊も戻って来るので、その供養が行われる。 多彩なお供え物ちなみに鬼と先祖のための供え物は内容が少し異なる。先祖供養にはロウソクや線香、紙銭はもちろん、故人が生前好きだった物を模した紙製品を燃やす人が多い。供え物には靴、バッグ、デジタルカメラ、携帯電話、電子レンジを模したものもあり、出来栄えもかなりのもの。主には火葬時に遺体と一緒に燃やすが、清明節、盂蘭節、重陽節にも燃やされる。
各地で行うオペラの舞台
香港の盂蘭節は40、50年前に広東省から移り住んだ潮州人や鶴佬人(鶴佬は現在の広東省海豊、陸豊市)によって持ち込まれた風習といわれる。このため潮州人や鶴佬人(鶴佬人が暮らす町内では盂蘭節のイベントも活発に行われる。
神功戲のマナー神功戯の舞台は町内の公園や広場に設けられる。芝居は、基本的には鬼たちに楽しんでもらうために演じるものなので、初日は誰も見ないのが習わし。だが誰もいない客席に向かって朗々と語られる芝居は実に奇妙なものだ。 2日目からは誰でも入って見ることができる。神功戯は広東語のほかに潮州語や鶴佬語のオペラが多いことから、この時期の町や村の娯楽として親しまれていたことがうかがえる。 恒例のお米の配付盂蘭勝会の最終日には町内会で「平安米」と呼ばれる米を配る。これは「派米(パイマイ)」と呼ばれ、米は家族で食べたり供え物に使われる。日本のお盆は盂蘭勝会とほぼ同じ時期に供え物や墓参り、盆踊りを行うことから、盂蘭節が由来との説がある。 お盆のタブーと習わし 実は鬼節には、してはいけないことがたくさんある。例えば、この時期は歩道に線香や紙銭の燃えかすが散乱していることが多いが、みだりに踏んだりしない方がいい。「靴に灰などが付いたまま帰宅すると、家に陰気(悪霊などが好む邪気)を持ち込みかねない」と考えられている。また、昔は土木工事や水にかかわる仕事、新装開店、引っ越しも縁起が悪いとされた。「鬼節にもらった嫁は恐妻になる」と、婚礼も控えられた。香港では鬼節が終わり涼しくなる秋口からウエディングシーズンに入るのはこのせいだ。
このほか、鬼に足を引っ張られるので水辺には近付かない。「印堂(みけん)」からは鬼が恐れる霊気が出ているので、みけんを髪で隠さない。昼間は鬼は日光が差さない暗い場所で固まっているので、暗い場所には行かない。鬼は自分が軽んじられるのが嫌いなので、怪談話をみだりにしない。「神功戯」の最前列の席は鬼が座っているので、最前列には座らない。 神功戲の主な開催場所
香港政府観光局によれば、今年も香港各地で盂蘭節ならではの催し「神功戲」が開催される。公園などにステージが設けられ、無料で鑑賞できる所も多い。スケジュールは以下の通り。鑑賞マナーは本文を参照のこと。 ■九龍城 日時:8月15~20日 20:00? 場所:九龍城亜皆老街球場 料金:無料 問い合わせ電話:2382-0636(ただし広東語のみ) |
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