香港フィルと共演
諏訪内晶子さんが来る4月7、8日に香港フィルのコンサート「Winter Dreams」でウォルトンのバイオリン協奏曲を演奏する。諏訪内さんは1990年チャイコフスキー国際コンクール・バイオリン部門に史上最年少(18歳)で優勝以来、国際的に活躍する日本を代表するバイオリニストの1人。コンクール優勝の翌年、ピッツバーグ交響楽団(マゼール指揮)と共演した香港公演を皮切りに何度も香港で演奏しているが、今回の香港フィルとの共演は9年振り。公演に先駆け諏訪内さんにストラディヴァリウスの名器「ドルフィン」や香港の思い出、香港フィルとの共演への意気込みなどを聞いた。
20世紀最大のバイオリンの巨匠ヤッシャ・ハイフェッツが愛用していたこの「ドルフィン」は1714年に作られたにもかかわらず保存状態が良く非常にバランスが取れた楽器です。もちろんハイフェッツが使っていたことで有名ですが、これまでさまざまな素晴らしい音楽家たちの手に渡ったこの楽器を私が弾かせていただくことに不思議なご縁を感じますし、非常にありがたいと思って毎日接しています。この「ドルフィン」は非常に個性のある楽器で、日本財団から貸借していただいた当初は別のバイオリンと交互に使っていたのですが、2つの楽器を使いこなすのは2つの人格といつも一緒にいるような感じで、現在はドルフィン以外のバイオリンでは演奏していません。楽器との相性とか楽器との時間というのは、奏者にとっては非常に大事なのです。今回の香港公演でもこのドルフィンで演奏いたします。
舞台というのはその一瞬にかけないといけないので、その一瞬に一番良いコンディションを保つということが重要である点が、一致するかと考えます。しかしスポーツ選手は身体的能力を保ち続けることが重要ですが、芸術家の場合は身体的な側面と芸術的な側面とが必ずしも比例するわけではないという点は異なりますね。経験値や人間的な幅や理解力の深まりと身体的な能力、それには瞬発力やストイックさが必要ですが、これらをあまり解離させないようにすることが大切ですね。年齢とともに芸術的な深みというものが出来上がっていくことはあると思いますが、それとは逆に身体的な能力を年月と逆らいながら保っていくことが大事だと思います。巨匠と呼ばれる方はそのような点に情熱を傾けていらっしゃいますね。 自分のことを申し上げると、デビューして最初のころは「自分は若いし、気持ちが先に行っていればある程度ついてくる。身体的能力は若さゆえんでついてくる」ということはあったのですが、それは必ずしもいつまでも続くものではなく、やはり努力しないと伴わなくなってきますね。巨匠と呼ばれる方はそういうものも整えつつ、活動されているのだな、と漸くわかってきました。 演奏については、人間というのは1回やったからもうおしまい、もう大丈夫、ってことは決してなくて、常に何かを追いかけて整えないといけませんね。その結果、10代のころから弾き続けている作品であっても、若いころの自分の演奏と今とでは全然違うかと思います。
1991年に初めて香港に来た時は旧啓徳空港だったのですが、山の間をぬって街のど真ん中に到着するのがものすごく怖かった思い出があります。一体なんて所に飛行機が着陸するんだろう! って思いました。その後香港には演奏会や、マカオや中国、台湾の経由地として何度も訪れていますが、来るたびにどんどん高いビルが増えている印象があります。そして夜景。夜になると水面に高いビルが映るのは、やはり香港でしか見られない独特の雰囲気がありますね。
チャイコフスキーコンクールで優勝した翌年から米ジュリアード音楽院に4年間留学しましたが、私の寄宿舎の隣室の留学生は香港から来ていました。「今は英国がバックについている香港だけど、本土に返還された後はどうなるんだろう?」と彼女が心配していたのが非常に記憶に残っています。彼女はその後香港フィルの楽員になり現在も活躍されていて、留学時代に共に学び共に助け合った仲間とまた再会出来るのが今からとても楽しみです。そして今回共演する指揮者のローレンス・フォスターさん、彼とは10数年前から面識があるのですが、実は今回の香港フィルとの共演が初顔合わせなので、どのような演奏が出来るかワクワクしています。 ※チケットなどの情報は13面参照 |
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