(漓水清)
2017年は中国の 2016年は「ブラックスワン」が相次いだが、2017年はどれほどの想定外の事態が発生するのであろうか? 中国の政治、経済、外交いずれにとっても2017年は大きな転換の年になると考えられる。それだけに一挙手一投足が中国の今後5年から15年の政治、経済情勢に影響するだけでなく、世界にも大きな影響を及ぼすであろう。特に、今年秋に開催される中国共産党第19回全国代表大会(党大会)に関する情報は、中国の政治外交や今後の経済情勢の行方を占うものとなり、これら情報の背後の含意などを読み解く必要がある。
党大会は中国の政治の一大イベントである。中国共産党の規定によると、党大会は5年に一度開催され、党の最高指導機関のために「党の重大な問題を討論、決定する」責任を負う。中国共産党は今後5〜10年のロードマップを制定する。もう一つ重要な点は、政治局常務委員の進退を含めた人事異動で、今後の政局に多大な影響を及ぼすものとなる。 こうした事情を踏まえると今年は中国の政局転換の年になるといえる。年齢からみて、政治局常務委員の7人のうち、習近平氏と李克強氏以外のメンバーは、「七上八下(67歳までは就任できるが、68歳になれば引退)」で退任し、党大会後は新たなメンバーに入れ替わる可能性がある。 過去20年、中国の指導部の人事異動は権力移譲が安定して実施された。これは、「七上八下」という不文律の規則によるもので、政治局常務委員は一定の年齢に達したら引退してきた。しかし、2016年10月、党中央政策研究室の>H茂生・主任が、いわゆる「退職年齢」は「巷の噂」、「一種の慣例」にすぎず、規定ではないと指摘。この発言が、「腐敗摘発の陣頭指揮を取る王岐山氏が政治局常務委員に留任するのではないか」との思惑を誘発した。 省レベルの幹部の交代は、党大会前に展開されている。2016年には人事異動が相次ぎ、通年では23の省・市で、書記、省長といった「一級レベル」の重大人事の見直しが行われ、うち12の省では書記と省長がそろって異動した。 異動のリストは以下の通りである。▽天津 書記・李鴻忠、市長・王東峰、▽山西=書記・駱恵寧、省長・楼陽生、▽河南=書記・謝伏瞻、省長・陳潤児、▽内モンゴル=書記・李紀恒、主席・布小林、▽江蘇=書記・李強、▽安徽=書記・李錦斌、省長・李国英、▽江西=書記・鹿心社、省長・劉奇、▽湖北=省長・王暁東、▽湖南=書記・杜家豪、省長・許達哲、▽貴州=省長・孫志剛、▽雲南=書記・陳豪、▽チベット=書記・呉英傑、▽陝西=書記・婁勤倹、省長・胡和平、▽新疆=書記・陳全国、▽甘粛=省長・林鐸、▽浙江=省長・車俊、▽青海=書記・王国生、▽四川=省長・尹力、▽北京=市長=蔡奇、等々。 これら省レベルの幹部の中には、将来が有望視されている人人物が少なくない。例えば、チベットの書記から新疆の書記に就任した陳全国氏と、湖北省の書記から直轄市である天津市の書記に就任した李鴻忠氏は、政治局委員に就任するとの見方が有力である。 党大会までにさらに多くの地方幹部の人事異動が起こると予想され、地方の政局も「新旧交代」が鮮明になるであろう。 さらに、注目されるのは、これら地方幹部のうち、誰が25人の中央政治局員に選定され、その中から第6世代の指導部、そして政治局常務委員に選出されるかである。中国の指導部は一般的に「世代」で区切られる。毛沢東の第1世代から始まり、胡錦濤と温家宝が第4世代、習近平と李国克が第5世代である。第6世代の指導部を見通すうえでも今年は中国の政局転換のカギとなる年で、少なくとも今後15年の中国の政治・経済情勢に影響を与える可能性がある。
中国のチーフエコノミストフォーラムの理事であるエコノミストの陶冬氏は、2017年の中国経済が直面するリスクについて以下の特徴があるとみている。 ①2017年は共産党党大会が開催され幹部の人事異動の年である。それだけに、想定外の大きな事件が発生しない限り、政策を大幅に見直すことはない、というのが一般的な慣例である。幹部の入れ替えは、金融政策、財政政策、為替政策、リスク管理モデルに影響を及ぼす可能性がある。 ②通貨流動性の収縮がすでに始まっている。中国人民銀行の政策金利こそ変化がみられないが、金融環境はすでに引き締め気味になっており、これは国際的な動きと歩調が同じで、行き過ぎた金融投機を抑制するという国内の政策の必要性と合致している。資金市場の流動性の縮小は今年いっぱい続くことはないであろうが、金融政策の引き締めは新たな趨勢といえる。 ③財政政策は難題を抱えている状況にある。2016年下期以降、政策銀行が融資に積極的になり、公共支出が鮮明に増加し、インフラ設備受注が拡大、原材料価格が反発した。これが景気安定の主因である。しかしながら、企業の税負担が重く、民営企業が投資に積極的でない事実に変わりはない。財政刺激策はすべて政府が資金を投じるが、企業はその分負担が大きくなるという矛盾を抱えている。 ④中央経済工作会議で「住宅は住むためのもので、投機に用いるものではない」と指摘された。これは、住宅政策の一つの大きな変化である。ここ数年、住宅は景気の牽引役とみなされ、金融としての属性が住居としての属性を上回っていたことが、住宅市場に資金が大量に流入した主因であった。加えて、潤沢な流動性と他の資産運用手段の欠如が不動産の投機的な取引に拍車を掛け、悪循環を形成していた。住宅を住居としての属性に戻すことは、不動産投機を助長させないことを意味し、過熱した都市において必要な規制を実施する傾向は常態化するとみられる。 ⑤人民元先安感が政策の手詰まり感を増幅させる。2015年8月以降の人民元安は、人民元レートに対する一方通行の上昇予想を完全に覆し、資金流出が2016年の中国経済にとって大きな懸念材料なった。資金流出は外貨準備の急速な消耗だけでなく、金融政策の運用余地を狭めている。さらに、企業の投資の積極性も後退させている。人民元レートの動向は2017年の経済状況に直接的な影響を及ぼすであろう。 最後に米中関係は不確定性が増幅している。トランプ大統領は選挙期間中、中国製品に対して懲罰関税を課すと公約したほか、中国を為替操作国と批判した。大統領就任後の言動や経済関連の閣僚人事からは、選挙期間の公約を実施する姿勢が読み取れるが、現時点では依然として不透明な部分が大きい。米国は中国にとって最大の取引相手で、トランプ大統領の対中政策は中国経済に直接的で大きな影響を及ぼす。 エコノミストの馬光遠氏は、2016年の中国経済は6・7%前後の成長を達成したものの、これは必ずしも景気が底を付いたことを意味するものではないと指摘する。「6・7%」という数字に対し、一部の学者は極めて楽観的な見方を示している。しかし、所謂「L字型」は経済成長率が止まって下降することではなく、供給サイドの改革を通じて構造転換を完成させることである。 馬光遠氏は、中国経済につていて2016年以降、これまでとは異なる状況に突入しているとし、中国経済に対する考え方を変えなければならないと指摘。中央経済工作会議では、「安定」を強調するとともに、リスク防止の必要性も訴えられた。会議では「金融リスクの防止をさらに重要に位置づけなければならない」、「資産バブルの防止・抑制に注力する」など幾度となく「リスク」が取り上げられた。トランプ大統領の就任後、米中の貿易摩擦が激化するのは必至なだけに、リスク管理は看過できない。 2017年の中国の経済政策の最重要課題について専門家の間では、リスクコントロールであるとの認識でほぼ一致している。システミックリスクさえ起こらなければ、中国は計画通りに供給サイドの改革を深化せることが可能である。「安定の中に深化を求める」という経済政策の基本方針の下、景気は相対的に安定的に推移すると予想される。今年の大きな焦点は構造改革と米中関係で、不動産市場は安定、株式市場は上昇、人民元は安定ながらも緩やかに下落する傾向が続くとみられる。 (月刊『鏡報』2017年2月号より。このシリーズは2カ月に1回掲載) |
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