経済のグローバル化が進む中、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き何に注目して事業を展開しているのか。さまざまな分野で活躍する企業・機関のトップに登場していただき、お話を伺います。
中国を意識したケーキも開発
オープン当初は普通の渦巻き状のロールケーキでした。あるホテルの中に出店していた時、オープン記念として半額セールをしたら毎日あふれるほどのお客様がお越しくださいました。ケーキの製造が追いつかなくなり昼過ぎには完売するような状況が続いたんです。パティシエに相談したところ「今のスポンジ生地を半分にしてクリームをたっぷり入れたら倍は作れる」と言われてできたものが一重巻です。 ——海外初出店は上海でしたね。
2010年に開催された上海国際博覧会(上海万博)でジャパンブース内の飲食スペースでの出店オファーを頂いたのです。予想を超える好評を頂き海外でも私たちの味が受け入れられると分かり、自信につながりました。その後、上海でもビジネス街で出店しました。当初は日系企業で働くビジネスマンなどが多かったのですが、広いカフェスペースも設けたので、打ち合わせする方やティータイムを楽しむ女性のお客様も増えました。この頃は堂島ロールをメーンに販売し、日本で製造していたものを上海に輸入していたんです。 ——なぜ現地製造しなかったのですか。
したかったのですが、中国では日本からクリームの輸入ができないため、仕方なく日本で製造されたロールケーキを販売していました。11年3月には東日本大震災が起き、以降は日本からのケーキの輸入が不可能になりました。その後は売り上げが通常の7割ダウンという厳しい状況が続きました。進出して間もなくこの状況に陥り赤字続きで、オープンしたての頃を思い出すような状況となりました。そこを打破するために上海の日本人、中国人スタッフが皆一丸となって頑張ってくれました。 ——どのように打開したのでしょうか。
ある時、スタッフたちが「堂島ロールだけの販売ではなくケーキ屋としてクオリティーを高めていくべきだ」と訴えてきたのです。その時ハッと気づいたんですね。中国に出店してきたのに、中国のお客様向けのケーキ、中国らしい弊社のケーキなどを作ってきていなかったと。そこで作ったのが「ハッピーポーチ」という商品でした。これはカスタードクリームとチーズケーキをクレープに包んで幸福袋のポーチのように見立てるものです。クレープで小籠包のように包まれた形が身近に感じるようで、地元のお客様の目に留まるようになりました。「幸福」という文字を目立つようにPOPを作り、ゴールドカラーの箱に入れて販売するなど中国を意識した形で作ると瞬く間にお客さんが増えました。思い切って大きくコンセプトを変えるきっかけを作ってくれたスタッフには感謝です。 ——香港には13年4月に進出しましたが、振り返ってみていかがでしょうか。 香港が一番出店しやすくてうまくいくだろうと甘くみていました。香港には外資系のケーキショップも多くありますし、英国文化も根強いのでアフタヌーンティーなどの洋菓子に対する関心も高いと思ったのです。ですが、あまりにもショップが多い分、参入は困難を極めました。バターがたっぷり入った濃厚な味のケーキが主流の香港のスイーツ市場に、弊社の「あっさりクリーム」は安易に受け入れてもらえませんでした。むしろあっさりしすぎて食べた感じがしないという厳しい声も頂くこともありました。堂島ロールは「会社の要」となる大切な商品です。香港でも同じ味をお召し上がり頂きたいという気持ちで販売しており、日本と同じオリジナルクリームを週に数回空輸し、こだわりをもって作っています。ですがクリームの特徴である生乳のようにミルキーなのに後味さっぱりしているところが、しっかりした味を好まれる方にとってリピートにつながるか、今新たな課題と向き合っているところです。訪日客が増えている香港のお客様が、香港でも満足していただけるクオリティーの商品を提供できるよう気持ちを引き締めて邁進して参ります。 (この連載は月1回掲載します)
【楢橋里彩】フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。 |
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