中国の伝統行事 端午節旧暦5月5日(今年は6月6日)は端午節。またの名を端陽節といい、中国の重要な伝統行事の一つだ。日本で五月五日に「子供の日」として祝う「端午の節句」の由来でもある。この日はちまきを食べたり、ヨモギやショウブの葉を飾る習慣がある。また世界各地でドラゴンボートレースが開かれる。ではこれらの風習はいつから始まったのだろうか? 端午節の起源にはさまざまな説があるが、最も有名なものは中国古代の詩人、屈原の伝説だろう。愛国者でありながら不遇の死を遂げた屈原をしのぶ日とされている。この日はちまきを食べたり、ヨモギやショウブの葉を飾る習慣があるほか、中国のみならず世界中でドラゴンボートレースが開かれる。このため英語では「ドラゴンボート・フェスティバル」の通称を持つ。 端午節の由来とともに、今年のレース情報やお薦めのちまきを紹介する。(構成・編集部)※一部写真・HKTB、マカオ観光局、資料・『中国節日故事』ほか
「何して過ごす?」
香港市民の端午節への思い
イェンさん(会社員・50 代)
私にとって端午節は一年の中でも楽しみにしている「特別な日」。実は若いころはドラゴンボートをこいでいたんだ。国際レースの一つである「香港国際龍舟邀請賽」の記念すべき第一回大会に出場したことがあるんだよ。だからとても思い出深い。仕事が忙しくなってからは練習やレースに参加することはなくなったけれど、毎年端午節には息子を連れて自宅から近いスタンレービーチに出掛けて、ドラゴンボートレースを見るのが定番の過ごし方になっているよ。
香港ではこの日は家族と一緒にちまきを食べて過ごすのが習わし。僕が子供のころも今もこれは変わらない。でも端午節の由来は皆知っていても、詳しく語れる人は少ないかもしれないね。息子にとっては端午節は伝統的な式日というより「家族と一緒に遊びに出掛けられる休日」という印象が強いらしい。歴史については小学校低学年の時にちゃんと習ったんだけれど、今では屈原の物語はあまり覚えていないと言っていたよ。(笑)
ワイさん(ブティックオーナー・40 代)
端午節って言ったらやっぱり「ちまき」が欠かせないわね。毎年中華レストランで購入して、家族で味わっているの。シーズン前は大量生産して作り置きする店もあるから注意したほうがいいわ。必ず新鮮なものを選ぶのがポイントよ! 子供が留学してしまったから今年は夫婦みずいらずの端午節。ちょっと寂しいわねえ。
スティーブンさん(デザイナー・40代)
屈原の物語はよく覚えているよ。でも僕は端午節だからと言って特に何かするっていうわけじゃないんだ。インドア派だから休日も家で過ごしたいタイプ(笑)。それでもちまきだけは必ず食べるよ。子供のころからの習慣だからね。独身だからわざわざレストランに買いに行ったりはしない。パン屋は手軽に買えるのでいいね。
チュンさん(販売員・20代)
端午節の一番の思い出といったら小さいころにちまきを初めて食べたときのことね。外出した母がちまきをお土産に買ってきてくれてそれがとてもおいしかったの。ナツメ入りの甘いちまきだったわ。でも私の周囲はちまきっていうとほとんどが豚肉やアワビ入りの塩辛いのが好きだって言うのよ。甘党は少ないの。 当日はせっかくの休日だからカメラ持参で友達と遊びに出掛けていろんな場所で記念撮影する予定よ。
カカさん(新聞記者・20 代)
見に行くなら沙田のレースがお薦めよ。毎年、芸能人やセレブが見に来るから。私はスポーツ局勤務だけれどドラゴンボートレースは担当じゃないの。端午節は香港の伝統行事だし、うちの新聞ではニュース局の記者が取材に行くわ。
わが家ではちまき作りは父の担当で、子供のころはよく豚肉入りちまきを一緒に作ったわ。昔はこの時期にならないと食べられなかったけれど、今は一年中お店で購入できるから作らなくなっちゃった。(笑)
アンジェラさん(事務アシスタント・50 代)
たいていは一日だけの休日だけれど、今年は二連休だからうれしい。毎年、中華レストランでちまきを買って帰り、家でゆっくり過ごすわ。 私は作ったことはないけれど、友達の中には自分で作る人がいて上手なの。最近は香港も高齢化社会だから、友人は自分で作ったちまきを老人ホームや恵まれない人たちに届けたりするボランティア活動をしているそうよ。とっても偉いと思うわ。
ジェニスさん(経理係・30 代)
端午節が来るころは香港もすっかり暑くなるころ。日差しが強いし、人込みが苦手なので、ドラゴンボートレースはもっぱら自宅でテレビ観戦しているわ。毎年ごろごろして一日が終わってしまって、ちょっともったいない気もするけれど…。
ちまきは年々種類が増えていろいろな具があるけれど、個性的な味はあんまり好きじゃない。やっぱり定番の豚肉入りが一番よね。
ちまきとドラゴンボート身を投げた詩人の物語
今から約二千三百年前、戦国時代に生まれた屈原は二十歳を過ぎたころから頭角を現し、楚の懐王の厚い信頼を受ける。そして宰相に任命され、内政のみならず外交にもその手腕を発揮するようになった。
当時、楚の西側には強大な勢力を誇る秦があり、脅威となっていた。楚は常々秦の侵攻に脅かされ、おじ気づいた貴族たちは秦に投降しようと言い始める。これに対し屈原は他国と力を合わせ秦を倒そうと主張。懐王はこの忠誠を称賛するが、秦の度重なる挑発と貴族たちの反対に遭い、屈原の意見を聞き入れず、ついには冷たく当たるようになってしまう。懐王の没後、皇太子の頃襄王が即位し、まだ若い頃襄王は貴族たちの言葉に耳を傾け、屈原を追放してしまうのだった。
五十歳半ばを迎えた屈原は都を追われ、流浪の旅に出る。遠方へと旅するうち、彼は楚の国民が貧しい生活を強いられていることを知り、『離騒』『九歌』『九章』などの詩をしたためる。これは後の中国文学に多大な影響を及ぼす傑作となった。
忠臣から流浪の身に
紀元前二七八年、楚の首都が秦に侵略された。国が敗れ、多くの死者が出たことに屈原は心を痛め、絶望してしまう。そして五月五日、現在の湖南省の泪羅江(長江の南側)に赴き、入水自殺を図ったのだった。
屈原の悲しいまでの愛国心に心打たれた村人は彼が川に身を投じたと聞き、救出に向かうが時すでに遅し。小舟を出し、川を下り洞庭湖まで屈原の遺体を捜したが見付からなかった。こんなに大きな湖で大型の船もなく、どうして屈原を捜し出せようか。村人たちが焦りを感じたとき、突然、大粒の雨が降り出した。洞庭湖で漁をしていた漁船が雨に打たれ次々と岸辺に引き返したところ、再び船を出して屈原を捜してほしいと村人たちに頼まれたという。われ先にと急いで船を出した様子が後のドラゴンボートレースの始まりとされている。
詩人の切なる願い
屈原が命を絶ってからも、楚の国の人たちは彼を慕い、毎年旧暦五月五日になると、もち米と小麦粉で作ったもちを川に投げ入れて、屈原の魂を弔う。ちまきを投げ入れるのは、屈原の遺体が魚に食い荒らされないようにするためと言われているが、こんな逸話も残されている。
漢代に入り、長沙に住む欧囘という人物が帰宅途中、屈原に似た男性と出会った。この男性が「自分は三閭大夫である」と名乗ったため、欧は生前、三閭大夫を務めた屈原の幽霊が現れたと思い、ひどく驚いた。
その三閭大夫は「毎年、丸、四角、三角などさまざまな形のもちを投げ込んでくれてありがとう。しかし、これらのもちは何にも包まれていないので、水に入るとすぐにミズチ(竜)に食べられてしまう。もちをササの葉で包み、五色の絹糸で結んでくれないか。ミズチはこの葉と絹糸を恐がるので、飲み込まれることはない」と話した。欧が聞き返そうとしたとき、三閭大夫の姿は突然消えたという。
帰宅した欧は三閭大夫の言う通りにもちをササの葉で包み、絹糸でくくり、三閭大夫に出会った話を周囲に聞かせた。道理にかなうと納得した村人たちはこれをまねて、もちを作った。これ以降、このもちを「粽子(中華ちまき)」と呼び、毎年五月五日の端午節に作って供えるようになったという。
各地で異なるしきたり
端午節は中国各地で見られる行事だが、東北地方ではちまきを食べるよりも鶏卵を食べることが多く、これには邪気払いの意味があるようだ。
また五月五日に玄関にヨモギやショウブの葉を飾る習慣は、屈原の魂を呼び寄せるためという説とヨモギの葉をいぶすと虫よけ効果が得られるためとの説がある。
主なドラゴンボートレース
〈香港〉
★2011永明金融赤柱国際龍舟錦標賽(2011サンライフ・スタンレー・インターナショナル・ ドラゴンボート・チャンピオンシップ)日時:6月6日8:00〜18:00(予定)会場:香港赤柱正灘(スタンレー・メーンビーチ)ウェブサイト:www.dragonboat.org.hk交通:セントラルのエクスチェンジスクエアのバス ターミナルから路線バス6番、6A番、6X番★2011沙田龍舟比賽日時:6月6日 7:30〜13:00会場:香港沙田城門河翠榕橋から沙燕橋の間の河川交通:MTR沙田、火炭駅から徒歩15〜20分★2011年度大埔区龍舟競賽日時:6月6日 8:30〜13:00会場:香港大埔海浜公園付近交通:MTR大埔駅からタクシーで約5分、路線バス71K番が付近を通る
〈マカオ〉
★2011澳門国際龍舟賽(2011マカオ・インターナショナル・ドラゴンボート・レース)日時:6月4、5、6日 (時間は日によって異なる)会場:南湾湖水上活動中心(Nam Van Lake Nautical Centre)交通:香港—マカオ・フェリーターミナルからタク シーで約10分
ちまきを食べよう
老三陽(OLD SAN YANG COMPANY)
所在地=香港銅鑼湾白沙道4号地下 電話2895・1482
端午節のシーズンに限らず、いつでも中華ちまきが手に入るのが、コーズウェイベイにある食材店「老三陽」だ。ここは上海ガニ専門店として有名だが、ちまきも人気商品の一つ。豚肉や金華ハム入り、アズキあん、ハスの実あん入りなど計20種類をそろえる。価格は1個8ドルから。日本の端午の節句に合わせてちまきを食べることもできる。
ホテルメードのちまきでリッチな気分を味わってはいかが? 香港で5つのホテルを展開するリーガル・ホテルズ・インターナショナルでは、6月6日まで4種のちまき(1個48〜308ドル)=写真①②=を販売する。「富豪極品原隻鮑魚粽」(1個228ドル)は、アワビ、貝柱など海の幸と金華ハム、シイタケ、塩漬け卵、緑豆を使ったぜいたくな味わい。今年から発売された新フレーバーが「富豪家郷潮州粽」(1個48ドル)。潮州料理の伝統的な味を生かしたちまきはピーナツ、塩漬け卵入りで、魚醤で味付けしたもので香り高いのが特徴。甘党なら「富豪蓮蓉鹼水粽」(1個48ドル)がお薦め。ハスの実のあんで作ったちまきはほど良い甘さだ。(リーガル・ホンコン・ホテル:予約電話2837-1748)
土瓜湾にあるホテル「ハーバープラザ・8ディグリー」では6月6日まで、2種の特製ちまき(各58ドル)=写真③=を提供する。ホテルの名を冠した「8度古法鹹肉粽」は緑豆と塩漬け卵、五香(中華スパイス)風味の豚肉が入っている。「特色瑶柱蟹粉粽」は他店ではなかなか見掛けないカニ肉入りのちまき。貝柱も入っていてる=写真④。(予約電話2126-1960)